公開日:2026.6.19

ラボオートメーションは、研究・分析プロセスを自動化する各種の取り組み/技術の総称です。近年、テクノロジーの進化などを背景に、効率化・品質向上などを目的とした活用が広がっています。
一方で、ラボオートメーションは、自動化の対象工程や目的、構成方法などの選択肢が非常に幅広いため、初めて検討する際は、「何から着手すべきか」「どのように判断すればよいのか」と悩むケースも少なくありません。
そこで、この記事では、ラボオートメーションの基本的な概念や主な用途、導入時に押さえておきたい検討ポイントについてわかりやすく解説します。
ラボオートメーションの導入を検討する際の参考としてお役立てください。
目次
なぜ今、ラボオートメーションが注目されているのか

ラボオートメーション(別名:ラボラトリーオートメーション)は、ロボットやワークフロー管理システムなどの各種ハードウェア・ソフトウェアを活用することで、研究・分析プロセスを自動化する仕組みのことです。
人的負担の軽減、処理能力の向上(スループット向上)、再現性や品質向上などを目的として、近年幅広い研究分野で導入が進んでいます。
ラボオートメーションの活用が広がっている背景には、大きく分けて2つの環境変化があります。
ひとつは、少子化や働き方の多様化に伴う人手不足です。
こうした社会環境の変化は、研究現場にも大きな影響を与えています。
もうひとつは、研究環境を取り巻く環境の変化です。
市場競争の加速によって開発スピードへの要求が高まるなか、研究開発は大規模化・複雑化しています。従来の「仮説検証型」に加えて、大量の条件から最適解を探索する「仮説探索型」の研究開発も広がっており、検証条件や実験数は増加する傾向にあります。また、再現性や品質保証の観点からも、より高い水準が求められています。「限られた人員で・多くの実験や分析を・短期間かつ安定した品質で進めること」は、研究現場の大きな課題となっています。
そのため、ラボオートメーションは、「研究・分析プロセス全体の効率化」を実現する解決策のひとつとして、注目されています。
ラボオートメーションとは?できることと導入の考え方

ラボオートメーションを導入した場合、実験作業はどこまで自動化できるのでしょうか。
ここでは自動化をレベル分けし、その内容や対象範囲を説明します。
また、自動化は目的に応じて設計の方向性が大きく変わるため、検討時の基本的な考え方についても合わせて説明します。
どこまで自動化できる?3つのレベル
本記事では自動化の範囲に着目して、ラボオートメーションを「タスクの自動化」「ワークフローの自動化」「ワークフローの統合」の3つのレベルに分けて整理します。
- レベル1:タスクの自動化
ピペッティングや質量測定など、実験を構成する単一の作業工程を自動化する
- レベル2:ワークフローの自動化
分注、試薬混合、インキュベーション、測定など、複数の工程を組み合わせた一連の流れ(ワークフロー)を自動化する
単一装置で完結するケースと、複数機器を連携させるケースに分けられる
- レベル3:ワークフローの統合
サンプル管理、前処理、分析といった複数のワークフローを連携することで、研究・分析プロセス全体を自動化する
一般に、ラボオートメーションという概念は、上記のレベル2~3の「ワークフローの自動化~統合」を指すことが多いです。
そのため本記事では、単一作業の自動化だけでなく、ワークフロー全体をどのように自動化・統合していくかという観点を中心に解説していきます。
目的によって変わる2つの考え方
ラボオートメーションの特徴は、処理能力や柔軟性など、何を重視するかに応じて、設計のバリエーションを大きく変えられることです。
この点が強みでもあり、同時に導入・運用者を悩ませるポイントとも言えます。
まずは、設計の考え方を大きく2種類に分けて整理しましょう。
ひとつは「スループット重視型」です。処理数や処理速度の最大化を重視し、一定条件での大量処理が求められる用途に向いています。
もうひとつは「柔軟性重視型」の設計です。ワークフローの手順や条件の変更、拡張が発生しやすい工程に向いており、導入後もそれらに柔軟に対応できるよう設計されます。
自社の研究内容に照らし合わせて、スループットと柔軟性のどちらをより重視するかを整理することで、自動化設計の方向性を検討しやすくなります。
どんな場面で活用されている?代表的な3つの用途
ここからは、ラボオートメーションが実際にどのような場面で活用されているかを紹介していきます。
代表的な用途として「探索研究」「ルーチン分析」「品質管理(QC)」をあげ、それぞれの作業特性と自動化のメリットを説明します。
探索研究
探索研究では、多数の化合物や条件を試しながら有望な候補を見つけるため、実験数が膨大になりやすい傾向があります。
そのため、人の手では作業負担や時間の面で限界がある工程の「効率化・高速化」を目的として、自動化が進められています。
特に創薬やバイオ、材料開発などの探索研究では、ラボオートメーションの導入が進んでいます。たとえば、多数のサンプルや条件を短期間で評価するハイスループットスクリーニング(HTS)などは、ラボオートメーションの効果が発揮されやすい代表例です。
ルーチン分析
研究所や分析機関で日常的に行われるルーチン分析も、ラボオートメーションの代表的な活用用途の一つです。環境分析や食品分析などにおいては、同じ実験手順を多数のサンプルに対して繰り返すことが多く、作業者の負担が大きくなりやすいという課題があります。
こうした業務において、分注や前処理、測定といった工程を自動化することで、作業効率の向上や人的負担の軽減が期待できます。また、一定の手順を自動化することで、作業のばらつきが抑えられ、再現性の向上や属人化の解消にも繋がります。
品質管理(QC)
ラボオートメーションは、医薬品や化学製品、食品などの分野における品質管理(QC)の現場でも活用されています。品質管理では、標準化された試験を継続的に実施する必要があり、実験時の条件や操作におけるわずかなバラつきが、実験結果に影響を与えます。
そのため、安定した試験運用や再現性の向上を図る手段として、自動化が導入されるケースが多く見られます。このような用途では、同一条件での繰り返し処理を安定して行える点が自動化の大きなメリットとなります。
目的によって求められる構成は異なる
このように、ラボオートメーションは用途によって求められる役割や導入効果が異なります。
一方で、「スループット重視」や「柔軟性重視」といった設計の方向性は、これらの用途に対して単純に当てはめられるわけではありません。
実際には研究内容や目的に応じて、最適なバランスを検討する必要があります。
そのため、自動化を検討する際には、「どの用途か」だけでなく、「何を優先したいのか(処理能力・柔軟性・再現性など)」を明確にすることが重要です。
ラボオートメーションを実現する3つの方法
ラボオートメーションは、単一の装置で完結するものから、複数の機器を組み合わせてシステム構築するものまで、さまざまな形があります。
その実現手段として、ここでは「自動機」「協働ロボット」「インテグレーター」の3つの観点から整理します。
自動機

ラボオートメーションを実現する方法の一つが、自動機の導入による自動化です。
自動機と聞くと、分注装置のような単機能の装置をイメージするかもしれません。しかし近年は、攪拌・温調など前後工程にまたがるモジュールを備え、複数の作業を組み合わせた「ワークフローの自動化」に対応する装置も増えています。
自動機は、あらかじめ決められた手順を安定して繰り返すことを前提に設計されており、同一作業を効率よく処理したい場合に適しています。そのため、ハイスループットを実現しやすい点が大きな特長です。
また、自動機は仕様があらかじめ定義された製品であることが多く、導入までの期間が比較的短い傾向があります。さらに、仕様が明確であるため、社内申請やバリデーション対応を進めやすい点もメリットの一つです。
このような特性から、多数のサンプルを同一条件で処理するHTSや、ルーチン分析・品質管理といった業務で広く活用されています。
一方で、自動機は用意されたモジュールの仕様に沿って構成されるため、ワークフローを装置側に合わせて調整しなければならない場合もあります。たとえば、従来は手作業で行っていた攪拌方法を、装置に対応した方法に変更するといったケースです。また、専用の消耗品が必要になることもあります。
導入にあたっては、運用変更による影響や、既存機器との併用可否を事前に確認しておくことが重要です。
協働ロボット

協働ロボットを用いた自動化は、精密な作業や繰り返し・単純作業、作業者への負担が大きい工程、機器の測定待ちなどの待機時間が多い作業の自動化に有効な手段です。
協働ロボットは、人と同じ空間で作業できる安全設計がなされており、省スペースでも導入しやすい点が特長です。機器間のサンプル搬送などを行い、複数工程をつなぐ役割を担います。
また、人の動作を模した柔軟な動きが可能であるため、専用の自動機では対応しにくい操作や、既存機器を組み合わせたワークフローの自動化にも対応しやすいという利点があります。そのため、人の作業と組み合わせた運用を行いたい場合や、既存設備を活かしながら自動化を進めたい場合にも適しています。
さらに、ロボットの動作は変更可能なため、柔軟性が高く、一部の工程から導入し、必要に応じて段階的に自動化の範囲を拡張していくといった進め方がしやすい点も特長です。
こうしたメリットがある一方で、協働ロボットによるラボオートメーションにはいくつかの課題もあります。
自動機や人手作業と比べると動作速度は遅くなる場合があり、スループットを高めるには同時処理数を増やす、夜間運転を行うなどの工夫が必要です。
また、ロボット単体で一連の作業を完結させることは難しく、機器間連携や制御設計を含めたシステム全体の構築には、専門的な知識が求められます。社内でシステム構築・運用まで対応できる体制がある場合は、ロボット単体の導入から進めるケースもあります。
一方で、設計や機器連携、制御調整などを含めて対応が必要になる場合は、後述するインテグレーターなどのサポートを受けながら、自社に適したワークフロー自動化システムを構築していくことが重要です。
インテグレーター

最後に、インテグレーターを活用した自動化について紹介します。
ラボオートメーションは装置購入だけでは完結せず、複数の工程を組み合わせたワークフロー、レイアウトまで含めて設計する必要があります。そのため、システム全体を見渡す専門的な知見が求められますが、こうした知見を社内で完結できるケースは多くありません。
ここで有効なのが、インテグレーターの活用です。インテグレーターは、ロボットや各種機器を組み合わせて、自動化システムを構築する企業・技術者を指し、要件整理から仕様設計、システム構築、導入後の運用支援までを一貫して担います。
既存機器を活かした構成や、自動機では対応しにくい工程の実現などにも対応できるため、全体最適と柔軟性の両立を図りたい場合に有効な選択肢となります。
一方で、仕様設計から検討を進めるケースが多いため、システムの構築には一定の時間を要します。内容によっては、稼働までに1年以上かかる場合もあるため、スケジュールには余裕をもって検討することが重要です。
各方法の特長・注意点のまとめ
ここまでに紹介したラボオートメーションを実現する3つの方法について、特長と注意点を一覧表にまとめました。
|
役割 |
特長 |
注意点 |
| 自動機 |
特定工程の自動化 |
- 同一作業を効率よく処理でき、ハイスループットを実現しやすい
- 仕様があらかじめ定義されているため、導入までの期間が短く、社内申請やバリデーションに対応しやすい
|
- ワークフローを装置側に合わせて調整する必要がある
- 専用の消耗品が必要な場合がある
|
| 協働ロボット |
柔軟な工程自動化 |
- 人と同じ空間で作業可能
- 人の動作を模した動きが可能
- 省スペースでも導入しやすい
- 既存設備を活かしやすい
- 一部導入や、導入後のフロー変更が容易
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- 自動機や人手作業と比べると動作速度が遅くなる場合がある
- ロボット単体で一連の作業を完結させることは難しいため、専門知識をもつサポーターと進めるとよい
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| インテグレーター |
システム設計・構築支援 |
- システム全体の要件整理から仕様設計、システム構築、導入後の支援まで一貫して対応可能
|
- 仕様設計から検討を進めるケースが多いため、システムの構築には一定の時間を要する
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ラボオートメーション導入時に押さえておきたい4つのポイント

ここからは、ラボオートメーションを実際に導入する際に、事前に整理しておきたいポイントを紹介します。
特に重要となるのは「自動化の目的」「予算」「設置場所」「サポート体制」の4つです。
これらをあらかじめ整理しておくことで、自社の研究・分析業務に適したシステムを検討しやすくなります。
自動化の目的
ラボオートメーションの導入を検討する際、まず明確にしておきたいのが「自動化の目的」です。
たとえば、「液体分注を自動化したい」「秤量を自動化したい」といった単一の工程であれば、自動化の対象となる作業は比較的明確です。
一方、ラボオートメーションのようにワークフロー全体の自動化を検討する場合は、「どこを自動化するのか」「どこを手作業として残すか」を判断する必要があります。
そのため、以下のような観点を整理しておくことが重要です。
- 現場で作業効率が悪く、時間がかかっている工程はどこか
- 作業者への負担が大きい工程はどこか
- スループット向上や高速化が目的か
- 再現性や品質向上を重視したいか
- 工程変更の可能性があるか
こうした課題や目的が曖昧なまま導入を進めてしまうと、「導入したものの現場で使われなくなる」といったケースも生じかねません。
まずは、「現場のどの課題を解決したいのか」を起点に、自動化の目的を整理することが重要です。
まずは相談してみる
予算をどう考えるか
次は、予算面で押さえておきたいポイントを説明します。
ラボオートメーションは、一般的な分析機器と比べると導入コストが高額になりやすく、装置単体でも数百万円規模、システム全体では数千万円から数億円規模となるケースもあります。また、自動化する工程や連携する機器が増えるほどシステムは複雑になり、導入コストは大きくなります。
そのため、予算が限られている場合は、まずは一部工程から自動化を始め、必要に応じて段階的に拡張していける構成を検討することも重要です。
あわせて、事前に費用対効果を想定しておくことも重要です。たとえば、「どれくらい作業時間を削減できるのか」「どの程度スループットが向上するのか」「人的負担やミスをどこまで低減できるのか」といった点を整理しておくことで、導入効果を評価しやすくなります。
これらが不明瞭な場合、「自動化したものの十分な成果が見えない」と判断され、その後の拡張や横展開が難しくなるケースもあります。
そのため、前述の「自動化の目的」と合わせて、「期待する効果」を明確にしたうえで、専門知識を持つパートナーと相談しながら進めることが重要です。
設置スペースと周辺環境
ラボオートメーションを導入する際は、設置スペースや周辺環境についても事前に検討しておく必要があります。
ラボオートメーションでは、導入する装置やシステムの構成によって必要なスペースやレイアウトが大きく変わります。また、単に機器を設置するだけでなく、作業動線やメンテナンス性を踏まえて最適な配置を考えることが重要です。
さらに、電源・ネットワーク・排気・振動対策など、必要なインフラを確保できるかどうかも確認しなければなりません。
どのような装置構成やレイアウトが限られたスペースの中で運用しやすいかは、研究内容や既存設備によって異なります。そのため、設置条件も含めて、ラボオートメーションに知見を持つパートナーと相談しながら、構成を検討することが重要です。
導入後のサポート体制
ラボオートメーションは、装置を導入して終わりではなく、運用・保守を続けながら長期的に活用していくシステムです。そのため、導入後にどのようなサポートを受けられるかも、事前に確認しておきたい重要なポイントとなります。
たとえば、メンテナンス対応、トラブル発生時のサポート、消耗品や部品の供給体制などは、事前に確認しておきたい項目です。
特にラボオートメーションでは、一部の装置停止がワークフロー全体の停止につながることもあるため、迅速な保守対応や部品の交換体制が特に重要です。
また、ラボオートメーションでは、装置単体の制御だけでなく、研究・分析フロー全体を踏まえた設計や運用が求められます。そのため、適切な設計・運用を構築するには、ロボティクスだけでなく理化学・分析分野への知見も持つパートナーを選ぶことも重要です。
前述した「インテグレーター」の中にも、産業用設備を扱う企業から、研究開発分野に特化した企業までさまざまなタイプがあるため、自社の研究・分析内容に合った支援を受けられるかどうかも含めて、相談先を検討するとよいでしょう。