安全キャビネットとは?種類や機能と選定のポイントをご紹介

2025.1.17



安全キャビネットは、生物や環境にとってリスクとなりうる物質を安全に取り扱うために用いる装置です。

この記事では、これから安全キャビネットを使用する予定の方のために、基本的な情報や使い方についてご説明します。また、安全キャビネットの選び方もご紹介しますので、新規購入や買い替え時の参考になりましたら幸いです。
安全キャビネットの選定に迷われた際は、池田理化がご要望にあわせた最適な機種をご提案させていただきます。

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目次

安全キャビネットとは

 安全キャビネットの使用目的

 安全キャビネットの原理と仕組み

バイオハザードとバイオセーフティレベル

 バイオハザードとは

 バイオセーフティレベルとは

安全キャビネットの種類

 安全キャビネットクラスⅠ

 安全キャビネットクラスⅡ

  クラスⅡタイプA1

  クラスⅡタイプA2

  クラスⅡタイプB1

  クラスⅡタイプB2

 安全キャビネットクラスⅢ

クリーンベンチやドラフトチャンバーとの違い

 クリーンベンチとの違い

 ドラフトチャンバーとの違い

安全キャビネットの正しい取り扱い方法

 安全キャビネットの使用手順

 安全キャビネットの性能を損なわないための注意点

  作業上の注意点

  設置場所の注意点

安全キャビネットを選ぶ4つのポイント

 1.用途に合ったバイオセーフティレベル(BSL)を満たすクラス

 2.設置環境や設置スペースを考慮

 3.フィルターの種類

 4.法令等における設置基準の遵守

おすすめの安全キャビネットメーカー

 オリエンタル技研工業

 サーモフィッシャーサイエンティフィック

 日本エアーテック

 PHC

 八洲EIテクノロジー

 ワケンビーテック

安全キャビネットのよくあるトラブルとその対処法

安全キャビネットの点検方法

 定期点検

 随時点検

 点検は専門業者に委託

まとめ

安全キャビネットとは


安全キャビネットとは、生物や環境にとってリスクとなりうる物質を安全に取り扱うために用いる箱状の装置です。

ウイルスや細菌といった感染性や病原性のある微生物(※1)、遺伝子組換え生物等(※2)、放射性物質などを作業エリア内に封じ込めることでバイオハザード(※3)を未然に防ぎ、作業者の安全性を確保します。
「バイオハザード対策用キャビネット」「バイオセーフティキャビネット」とも呼ばれ、取り扱うサンプルや作業内容ごとに求められるバイオセーフティレベル(※3)に応じて、クラスⅠ・Ⅱ・Ⅲの3区分から最適なクラスを選択する必要があります。


※1 微生物… ウイルスは自己複製や代謝を宿主に依存するため、生物学において「生物と非生物の間に位置するもの」と考えられているが、この記事ではウイルスを「微生物」に含むものとする。
※2 遺伝子組換え生物等… カルタヘナ法において、主に「遺伝子組換え生物等は、施行規則第1条第2号の規程により、細胞等に核酸を移入して当該核酸を移転させ、又は複製させることを目的として細胞外で加工する技術を用いて得られた核酸又はその複製物を有する生物」と定義される。意訳すると、その漏出によって、自然界に存在しえない遺伝子が流出・拡大して、害を成す恐れのあるものである。
(上記「」内出典: 文部科学省「遺伝子組換えに関するQ&A(第二種使用等)」)
※3 バイオハザード、バイオセーフティレベル… 「バイオハザードとバイオセーフティレベル」にて後述

安全キャビネットの使用目的

安全キャビネットの使用目的は「バイオハザード防止」「作業者の安全性の確保」です。また、クラスⅡ以上では「無菌操作」を行うことも目的のひとつとなります。危険な病原体(※4)や遺伝子組換え生物等の取り扱い、抗がん剤溶液の調製などを行う大学・研究所・医療機関等では、安全性を確保するため、法令などで安全キャビネットの設置が義務付けられています。

クリーンベンチやドラフトチャンバーと外見が似ており、用途も混同されがちですが、それぞれ使用目的は異なります。これらの違いについては、後述の「クリーンベンチやドラフトチャンバーとの違い」で解説します。


※4 病原体… 病原性を持ちうるウイルス・細菌・真菌・原虫のこと

安全キャビネットの原理と仕組み


安全キャビネットは、作業エリア内を陰圧に保つことで、病原体や遺伝子組換え生物等の漏洩を防ぐ仕組みです。エリア内の空気がエリア外へそのまま流出することはなく、汚染された空気はHEPAフィルター(※5)を通して清浄化されてから排出されます。

「バイオハザード防止」「作業者の安全性の確保」という目的は共通していますが、安全キャビネットは構造・性能の違いによってクラスⅠ~Ⅲに分類されます。
クラスⅠは装置前面のサッシ(シャッター)開口部からエリア内に直接空気が取り込まれる構造になっており、エリア内での無菌操作はできません。
クラスⅡ以上では、サッシ開口部から取り込まれた空気は直接エリア内には入らず、HEPAフィルターを通して清浄化されてからエリア内に供給されるため、無菌操作が可能です。
クラスⅢは作業エリアが完全に隔絶されており、より安全性が高い構造です。

各クラスの詳細については「安全キャビネットの種類」の章にて後述します。


※5 HEPAフィルター… High Efficiency Particulate Air フィルターの略称。非常に目が細かい。詳細は「3. フィルターの種類」にて後述。

バイオハザードとバイオセーフティレベル


安全キャビネットの要不要やクラスを適切に判断するためには、「バイオハザード」の定義と、それを防ぐために必要とされる「バイオセーフティレベル」を把握しなければなりません。環境や作業者の安全性を確保するため、この2つの用語を正しく理解しましょう。

ここでは、それぞれの用語の意味を解説します。

バイオハザードとは

バイオハザードとは「Biological hazard」の略称で、生物災害と訳されます。

病原体による感染や、遺伝子組換えによって生み出された自然界に存在しない生物などによって、意図的あるいは偶発的に発生し、生物や自然環境に直接的あるいは間接的にもたらされる災害を指します。
具体的には、漏洩した遺伝子組換え生物等による生態系の破壊や、炭疽菌を用いたテロ事件などがこれに当たります。

バイオハザード対策が必要な作業は、感染症の治療やそれに関連する研究などの「病原体関連」、遺伝子組換え研究などの「遺伝子工学関連」の2つに大別されます。
これらの作業には、内容に応じたバイオハザード対策設備が必要で、その判断基準となるのが次の章で説明する「バイオセーフティレベル」です。

バイオセーフティレベルとは

バイオセーフティとは、生物や環境にとってリスクとなりうる病原体や遺伝子組換え生物等を扱う際に安全性を確保し、バイオハザードを防ぐこと、また、そのために講じる措置を指します。

世界保健機関(WHO)で作成された「実験室バイオセーフティマニュアル」には、危険度に応じてバイオセーフティレベル(biosafety level; BSL)が設定されており、作業内容や取り扱いサンプルごとに、危険度の低いBSL-1から危険度の高いBSL-4までが規定されています。
求められるBSLによって必要となるバイオハザード対策は異なり、これに合わせて安全キャビネットの使用有無を判断したり、適切なクラスを選択したりする必要があります。(詳しくは「1.用途に合ったバイオセーフティレベル(BSL)を満たすクラス」にて後述)
そのほかにもBSLによっては オートクレーブ の設置、実験室の隔離や一般人の立入禁止、二重ドア入口の設置などが必要になる場合があります。

また、国内においては、国立感染症研究所の定めた「病原体等安全管理規程」によって病原体の取り扱い方法が規定されています。遺伝子組換え生物等の取り扱いについては「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で規定されていますので、事前に確認しましょう。

安全キャビネットの種類


安全キャビネットにはクラスⅠ〜Ⅲの3種類があり、その中でもクラスⅡはさらに4つのタイプ(A1、A2、B1、B2)に分類されます。いずれも作業エリア内は陰圧に保たれており、エリア内の空気がエリア外へ流出しない仕組みです。

しかし、それぞれ構造や気流方式は異なっており、用途に合わせた選択が必要です。ここでは、それぞれの特徴についてご紹介します。

安全キャビネットクラスⅠ

クラスⅠの安全キャビネットは、サッシ開口部から作業エリア内へ直接空気を取り込みます。

エリア内は陰圧に保たれており、エリア内の空気がそのままエリア外に排出されることはありません。エリア内の汚染された空気はHEPAフィルターで清浄化されてから排出される仕組みです。

このようにして作業の安全性は確保されますが、エリア内に空気を直接取り込むため無菌操作はできません。そのため、室内に浮遊する物質によるコンタミ(※6)が発生する可能性が高く、近年ではクラスⅠの安全キャビネットはあまり使われていません。


※6 コンタミ… 正式にはコンタミネーション(contamination)と言う。ある物質に本来あるべきでない別の物質が混入すること。ここでは空気中の浮遊物質によってサンプルに汚染されることを指す。また、汚染されたサンプルから別のサンプルへその汚染が拡大すること(クロスコンタミネーション、交差汚染)も含まれる。

安全キャビネットクラスⅡ

クラスⅡの安全キャビネットは、無菌操作が可能な汎用性の高い安全キャビネットです。「JIS K 3800(※7)」に規格が定められており、構造や気流方式などの違いによってA1、A2、B1、B2の4タイプに分類されます。

この章ではそれぞれのタイプの特徴についてご紹介します。


※7 JIS K3800… 最新情報については「日本規格協会グループHP」にてご確認ください。記事公開日時点では「JIS K 3800:2021」が最新です。

クラスⅡタイプA1


クラスⅡタイプA1の安全キャビネットは、サッシ開口部からの平均流入風速が 0.4 m/s 以上、間口 1 m当たりの平均排気風量が 0.066 m2/s 以上になるよう維持されています。

流入した空気は直接作業エリア内には取り込まれず、最前部からキャビネット内部に吸引され、エリア内上部のHEPAフィルターを通して供給されます。エリア内には清浄化された空気が供給されるため、無菌操作を行うことが可能です。
また、エリア内の空気はキャビネット最前面と最奥部から吸引されます。そのうち約70%はHEPAフィルターを通してエリア内へ再び供給され、残りの約30%はHEPAフィルターを通して室内排気される仕組みです。

病原体や遺伝子組換え生物等のほか、少量の不揮発性の有害物質(※8)を取り扱うことができますが、ガス状または揮発性物質を取り扱う際は特に注意が必要です。
クラスⅡタイプA1の安全キャビネットは室内排気かつ一部循環(循環率約70%)する構造です。したがって、HEPAフィルターで捕集されないガス状または揮発性の有害物質を取り扱う際は、濃度基準値(※9)を超えないよう注意する必要があります。換気で対処できうる量を超える場合は、上図右のようなキャノピーフードを接続することで、一定濃度までの対応が可能です。この際も、循環率やキャノピーフードが開放接続型である点などを踏まえ、室内の濃度基準値を超えない使用に留める必要があります。


※8… ここでの有害物質に放射性物質は含みません。取り扱い不可とは限りませんが、ご検討の際はメーカーや代理店にご相談ください。
※9 濃度基準値… 一定程度のばく露により健康障害を生ずるおそれのある物質を取り扱う場合、ばく露する程度を国の定める基準以下にしなければならない。
(出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「濃度基準値」)

クラスⅡタイプA2


クラスⅡタイプA2の安全キャビネットは、基本的にはタイプA1と同じ仕組みですが、サッシ開口部からの平均流入風速が 0.5 m/s 以上、間口 1 m当たりの平均排気風量が 0.100 m2/s 以上になるよう維持される点がタイプA1とは大きく異なります。

病原体や遺伝子組換え生物等、少量の不揮発性の有害物質(※8)を取り扱うこと、また、無菌操作が可能です。
ただし、タイプA2のエリア内の空気も一部循環(循環率約70%)であり、基本的には室内排気される構造のため、タイプA1と同様に、ガス状または揮発性の有害物質を取り扱う際は注意が必要です。タイプA2もキャノピーフードを接続することで、一定濃度までのガス状または揮発性の有害物質に対応することが可能ですが、室内の濃度基準値を超えない使用に留めるよう注意しましょう。


※8… ここでの有害物質に放射性物質は含みません。取り扱い不可とは限りませんが、ご検討の際はメーカーや代理店にご相談ください。

クラスⅡタイプB1


クラスⅡタイプB1の安全キャビネットの基本的な空気の流れはタイプA1、2と同様です。タイプA1、2と大きく異なるのは、作業エリア内の空気がHEPAフィルターで清浄化されたあと、密閉式陰圧ダクトを通じてすべて外部へ排出される点です。

タイプA1、2よりも安全性が高く、より高濃度のガス状または揮発性の有害物質や、放射性物質を取り扱うことができます。

なお、サッシ開口部からの平均流入風速は 0.5 m/s 以上、間口 1 m当たりの平均排気風量が 0.100 m2/s 以上、エリア内の空気の循環率は約50%です。
後述するタイプB2は循環率0%でより安全性が高いのですが、タイプB1の方が「消費電力が少ない」「風量バランスが安定しやすい」といったメリットがあります。

クラスⅡタイプB2


クラスⅡタイプB2の安全キャビネットは、タイプA1、A2、B1と異なり、作業エリア内の空気が循環せず(循環率0%)、全ての空気が排気ダクトから外部へ排出される仕組みです。サッシ開口部からの平均流入風速は 0.5 m/s 以上、間口 1 m当たりの 平均排気風量が 0.100 m2/s 以上です。

全排気型安全キャビネットとも呼ばれ、ガス状または揮発性の化学物質、放射性物質のほか、有機溶剤なども安全に取り扱うことが可能です。

タイプB2の安全キャビネットの運用中は室内の空気を大量に排出するため、空気供給のない環境で長時間使用することはできません。設置の際は、風量バランスを保ちながら、室内へ安定的に空気を取り込むための環境構築が不可欠です。

安全キャビネットクラスⅢ

クラスⅢの安全キャビネットの特徴は、作業エリアの気密性が高く、完全密閉式である点です。

HEPAフィルターで清浄化された空気がエリア内に給気され、エリア内の汚染された空気は、二重のHEPAフィルターでろ過、もしくはろ過後に燃焼処理されてから排出される仕組みです。基本的には室内排気されますが、用途によってはダクトを介して外部に排出される場合もあります。

サンプルの出し入れはトランスファーチャンバー(パスボックス)を介して行います。

グローブによる操作が必要になることからグローブボックスとも呼ばれており、細かな作業には不向きな安全キャビネットですが、隔絶された空間での作業になるため安全性が非常に高く、エボラウイルスなどの危険度の高い第一種病原体のように、BSL-4が求められる作業に必須の安全キャビネットです。

クリーンベンチやドラフトチャンバーとの違い


安全キャビネットの類似品として、クリーンベンチ、ドラフトチャンバーという装置があります。

安全キャビネットの使用目的が「バイオハザード防止」「作業者の安全性の確保」「無菌操作(クラスⅡ以上)」であるのに対し、クリーンベンチは「コンタミネーションの防止(無菌操作を含む)」、ドラフトチャンバーは「有機溶剤や特定化学物質からの作業者の保護」「外気汚染の防止」を目的として用いられます。

形状はよく似ていますが、構造や使用目的が異なるため安全キャビネットの代替として使用することはできません。この章ではぞれぞれの違いについて解説します。

クリーンベンチとの違い

クリーンベンチの使用目的は「コンタミネーションの防止(無菌操作を含む)」です。

作業エリア内上部のHEPAフィルターを通して清浄な空気がエリア内に供給され、サッシ開口部から排出されることで、空気中のほこりや微生物の侵入を防ぐ仕組みです。主に細胞培養などの無菌操作が必要な作業や、半導体製造などの高い清浄度の求められる作業で用いられます。

安全キャビネットのエリア内が陰圧であるのに対して、クリーンベンチのエリア内は陽圧です。エリア内の空気はそのままエリア外へ排出されるため、バイオハザード対策が必要な作業では使用することができません。

ドラフトチャンバーとの違い

ドラフトチャンバーの使用目的は「有機溶剤や特定化学物質からの作業者の保護」「外気汚染の防止」です。

ダクトを通して(※10)送風機で作業エリア内の空気を全て外部に排出する構造で、作業者が安全に有機溶剤や特定化学物質といった有害物質を取り扱うために使用されます。

外気汚染を防ぐため、排出される空気中の有害物質はスクラバーや活性炭フィルターによって除去されますが、バイオハザード対策が必要な作業では使用することができません。クリーンベンチや安全キャビネット(クラスⅡ以上)と異なり、エリア内へ供給される空気はHEPAフィルターを介さないため、無菌操作にも対応していません。

また、ドラフトチャンバーは、労働安全衛生法(有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則)で規制されている「局所排気装置」に該当し、規制対象に該当する作業を行う施設で設置が義務付けられています。

ドラフトチャンバーについてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
ドラフトチャンバーとは?種類・原理・選び方・おすすめメーカーをご紹介

※10… ダクトレスドラフトチャンバーを除く

安全キャビネットの正しい取り扱い方法


安全キャビネットの使用目的である「バイオハザード防止」「作業者の安全性の確保」「無菌操作(クラスⅡ以上)」を実現するためには、使用手順を守る必要があります。
また、安全キャビネットは作業エリア内の気流や風速、排気量などのバランスを適切に保つことによって、正しい性能を発揮します。それらの妨げになるような使用や設置場所は避けなくてはなりません。

安全キャビネットの使用手順

安全キャビネットの一般的な使用手順は以下の通りです。

  1. 使用する30~60分前から紫外線ランプを点灯(直視厳禁)
  2. 電源を入れ、ファンを5~10分間ほど稼働させ、作業エリア内の空気を清浄化
  3. 手や腕を洗い、手袋をはめ、70%エタノールで消毒
  4. 作業エリア内に手と腕を入れて1分間待つ
  5. サッシを含むキャビネットの内側の面(給気フィルター拡散板を除く)を70%エタノールで消毒
  6. バイオハザードバッグ(滅菌バッグ)などをはじめ、作業に使用する道具や装置、サンプル容器などを70%エタノールで消毒して持ち込む
  7. 気流を邪魔しないよう、作業を実施する
  8. 作業が終わったら、道具や装置を70%エタノールで消毒して外に出す。この時、UV耐性のあるものは作業エリア内に残しておく
  9. 汚染の少ない上流から下流へ向かって、作業エリア内を70%エタノールで消毒
  10. 清掃後の廃棄物は作業エリア内でバイオハザードバッグに入れ、バッグの口を閉じる
  11. サッシを閉じ、ファンを稼働させ、紫外線ランプを30~60分程度点灯(必要に応じて過酸化水素で除染)
  12. 使用した手袋やディスポーザブルの作業着は、汚染の可能性のある面を内側に折り込み、別のバイオハザードバッグに入れる
  13. 汚染物を入れたバイオハザードバッグは、オートクレーブなどで滅菌可能なものは滅菌し、バイオハザード廃棄物として専用のコンテナに廃棄する
    また、再利用可能なものは適切な滅菌・洗浄を行う
  14. 手や腕を石鹸で洗浄する

※ 70%エタノールによる消毒は、適宜「噴霧」と「清拭」を使い分けてください。
※ 手や腕を装置から出し入れする際は都度70%エタノールで消毒することで、より清浄性を保つことができます。
清掃時の注意点として、取り扱うサンプルによっては70%エタノール以外の消毒剤が適しているケースがあります。一例として、抗がん剤を取り扱うときは、次亜塩素酸ナトリウムで清掃しなければなりません。
また、無菌操作を行う場合はコンタミ防止のために、作業エリア内の清掃だけでなく、安全キャビネットの外側や周辺環境の清掃もした方がよいでしょう。

最適な使用手順は機種や周辺環境(清浄度など)によって異なる場合があります。上記はあくまで参考とし、実際の用途や状況に合わせた運用を検討してください。

安全キャビネットの性能を損なわないための注意点

安全キャビネットの使用目的は「バイオハザード防止」「作業者の安全性の確保」「コンタミ防止(クラスⅡ以上)」の3つです。

性能を妨げるような誤った使用により、環境や作業者が危険にさらされたり、貴重なサンプルを汚染させてしまったりする恐れがあります。
使用手順を守るとともに、以下でご紹介する注意点にも気を付けてください。

作業上の注意点

① 気流を妨げない

安全キャビネットは作業エリア内の気流や風速、排気量などのバランスを適切に保つことによって、その性能を発揮します。したがって、安定した気流を維持するためには、以下のような点に注意が必要です。

  • 背後の人の動きや部屋のドアの開け閉めを最小限にする
  • 可能な限りキャビネットの奥で、ゆっくりと最小限の動きで作業する
  • 気流を発生させる装置はキャビネットの奥に設置する
  • 吸い込み口を腕や道具などで塞がない
  • 不要な気流を発生させるアルコールランプなどの火器は使用せず、必要な場合はブンゼンバーナーを用いる
  • サッシ開口部は最大でも25cm程度までにする(※メーカーや機種によって推奨値は異なる場合があります)

② 汚染は最小限にとどめる

気流を妨げないよう注意したうえで、安全性の確保と作業エリア内でのコンタミ防止のためには、下記のような点に注意が必要です。

  • 作業開始前後は「安全キャビネットの使用手順」で述べた消毒作業を徹底する
  • 作業エリア内からエリア外に手や物を移動する際は、必ず消毒作業を行う(逆も同様)
  • 作業エリアは、クリーン→準汚染→汚染エリアの3つを重複のないよう分画する
  • エアロゾル(※11)を発生させる装置はサンプルから遠くに配置する
  • サンプルに気流が直撃しないよう配置を工夫したり、蓋やカバーで保護する
  • 作業で発生した廃棄物は適切に処理する
※11 エアロゾル… 大気中に浮遊している微小な粒子(液体または固体)と周囲の気体の混合体のこと。ここではクロスコンタミネーションの原因となりうる。

以上を参考に、実際の用途や状況に合わせて、最適な運用を検討してください。

設置場所の注意点

安全キャビネットの設置にあたっては、キャビネット前面の気流を安定させるため、室内に風が強く吹き込んだり、通路やドアの近くなど空気の流れが頻繁に変わったりする場所は避けた方がよいでしょう。
また、メンテナンス時の作業性などを考慮して、装置の左右・背面・上部は30~35cm程度(※)のスペースを確保しましょう。

※ メーカーや機種によって推奨値は異なる場合があります。

安全キャビネットを選ぶ4つのポイント


安全キャビネットの機種選定の際は、用途に応じて必要となる性能を見極めることがもっとも重要です。
また、求められるバイオセーフティレベル(BSL)に合わせて設置環境を整えたり、法令やガイドラインに準拠したりする必要があります。

ここでは適切な安全キャビネットを選定する際のポイントをご紹介します。

1. 用途に合ったバイオセーフティレベル(BSL)を満たすクラス


安全キャビネットの選定でもっとも重要なポイントは、用途ごとに求められるBSLを基準に、適切なクラスを選択することです。適切でない安全キャビネットを用いることで、作業者に危険が及び、バイオハザードを引き起こす恐れもあるため、十分リスクを考慮しましょう。

バイオセーフティレベル(BSL) 用途や扱うサンプル 求められる安全キャビネットのクラス
BSL-1 個体や地域社会に及ぼす危険度が低い病原体(ワクチン株など)や遺伝子組換え生物等 不要
BSL-2 無菌操作が不要
普遍的な臨床検体
個体への危険度が中程度で地域社会に及ぼす危険度が軽度な病原体(病原性大腸菌など)や遺伝子組換え生物等
不揮発性の危険物
クラスⅠ以上 ※
BSL-3 無菌操作が必要
個体への危険度が高く地域社会に及ぼす危険度が中程度の病原体(HIVなど)や遺伝子組換え生物等
不揮発性の危険物
クラスⅡA1・A2・B1
上記に加え、揮発性の溶剤や放射性物質 クラスⅡB2
BSL-4 個体および地域社会に及ぼす危険度が高い病原体(エボラウイルスなど)や遺伝子組換え生物等 クラスⅢ
※ 「クラスⅠ以上」という表記の通り、取り扱うサンプルによっては、上位のクラスが求められる場合もあるため要注意


なお、危険度については下記サイトの最新情報を参考にしてください。


2. 設置環境や設置スペースを考慮

次に考えなければならないことは、装置の設置環境や設置スペースです。

バイオセーフティレベルとは」の章で述べたように、作業内容ごとに求められるバイオセーフティレベル(BSL)に合わせて、安全キャビネットのほかにも、適切な設備環境を構築しなければなりません。
各BSLで求められる設備環境の詳細については、国立感染症研究所「病原体等安全管理規程」内の「付表3 BSL実験室の安全設備基準」やWHO「実験室バイオセーフティマニュアル」などを参考にしてください。

また、「設置場所の注意点」で説明した通り、空気の流れが乱れやすい廊下やドアの近くへの設置は避け、メンテナンスのために装置の周囲に適度なスペースを設けるようにしましょう。
排気ダクトを設置する場合は、ダクト内に汚染した空気が滞留して換気が不十分になることを防ぐため、装置と排気口の距離が長くなりすぎないようにしなければなりません。
加えて、安全キャビネットはサイズが大きいため、地下や高い階層への設置が困難となる可能性があります。搬入の際にエレベーターに乗る大きさやドアから入る大きさなど、設置したい場所に応じたサイズでなければなりません。

これらの条件を満たす場所に設置できない場合は、新たなスペースの増設も検討してください。

3. フィルターの種類

ほとんどの安全キャビネットはHEPAフィルターを採用していますが、近年はさらに高い捕集効果を有するULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルターを採用する製品も充実してきました。

HEPAフィルターは0.3μmの微粒子を99.97%以上除去可能ですが、ULPAフィルターは0.15μmの微粒子を99.9995%除去できます(※12)。
フィルターの交換頻度は高くなりますが、ULPAフィルターを使用することで極めて微小なウイルスもほぼ捕集できるようになり、HEPAフィルターと比べて、作業エリア内およびエリア外へ排出する空気の清浄度が大きく向上します。危険度の高いウイルスを用いる場合は、ULPAフィルターを備えた安全キャビネットも検討しましょう。


※12… この記事の公開日時点で、HEPAフィルターおよびULPAフィルターは、JIS Z 8122において「定格風量で上記の粒子捕集率を持ち、かつ、初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」と定義されている。ただし、2022年2月21日よりJIS B 9927にて、粒子除去用高性能フィルターの「MPPS(Most Penetrating Particle Size ; 最も透過しやすい粒子径)」の捕集効率に関して定義変更があったため、旧規格のフィルターが新規格の性能を有するとは限らない。詳細については「日本規格協会グループHP」の該当規格を参照。

4. 法令等における設置基準の遵守

安全キャビネットは、法令によって設置が義務付けられている場合があります。

ここでは一例をご紹介します。
なお、下記は記事公開日時点の情報のため、最新情報は各出典元をご確認ください。


法令(一例) 設置基準に関する記述(一例)
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則
(出典: https://laws.e-gov.go.jp/law/410M50000100099
(一種病原体等取扱施設の基準)
第三十一条の二十七 六 ホ
実験室の内部に、高圧蒸気滅菌装置に直結している高度安全キャビネット(防護服を着用する実験室にあっては、安全キャビネット)を備えていること。

(一種病原体等の保管、使用及び滅菌等の基準)
第三十一条の三十一 2 一
一種病原体等の使用は、実験室の内部に備えられた高度安全キャビネットにおいて行うこと。ただし、防護服を着用する場合にあっては、安全キャビネットにおいて行うこと。



※ 「高度安全キャビネット」および「安全キャビネット」の定義については、本文「第十一章 特定病原体等(用語の定義)第三十一条の二 十」「同 十一」および、厚生労働省「厚生労働大臣が定める安全キャビネット等の規格」をご参照ください。
研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令(研究開発二種省令)
(出典: https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60001080001
別表第二(第四条第一号関係)
二 P2レベル イ
(2) 実験室に研究用安全キャビネットが設けられていること(エアロゾルが生じやすい操作をする場合に限る。)。

二 P2レベル ロ
(2) エアロゾルが生じやすい操作をするときは、研究用安全キャビネットを用いることとし、当該研究用安全キャビネットについては、実験を行った日における実験の終了後に、及び遺伝子組換え生物等が付着したときは直ちに、遺伝子組換え生物等を不活化するための措置を講ずること。

また、上記の「研究開発二種省令」は「カルタヘナ法」を基としています。「カルタヘナ法」は、遺伝子組換え生物等が自然界に悪影響を及ぼさないよう使用を規制する法律です。経済産業省「カルタヘナ法の解説(第二種使用申請マニュアル)」にて体系的にまとめられているので、参考にしてください。

このほかにも、医療関連では「注射剤・抗がん剤無菌調製ガイドライン」において、設置基準が設けられています。適宜、関連する法令やガイドラインなどを確認し、それらを遵守しましょう。


使用目的に最適な安全キャビネットを選定するのは容易ではありません。池田理化では多くのメーカーの製品を取り扱っています。
幅広いラインナップの中からお客様のご要望に合わせて、最適な安全キャビネットご提案いたします。どうぞお気軽にご相談ください。








おすすめの安全キャビネットメーカー

池田理化の豊富な取り扱い製品から、おすすめのメーカーと機種をご紹介します。(メーカー五十音順)
 

オリエンタル技研工業

おすすめ機種と一押しポイント

卓上安全キャビネット
Olive(オリーブ)


コンパクトながらも十分な作業スペースを確保
操作性と安全性を兼ね備えた新しいスタイルの安全キャビネット

製品詳細はこちら

サーモフィッシャーサイエンティフィック

おすすめ機種と一押しポイント

Thermo Scientific™ Herasafe™ 2030i
クラスll 安全キャビネット


国際規格NSF/ANSI 49に適合した信頼の安全性
直感操作と高度な管理機能で、研究の効率を最大化

製品詳細はこちら

日本エアーテック

おすすめ機種と一押しポイント

安全キャビネット
クラスIIA2


JIS規格(K3800:2021)自己適合宣言品
サッシ開口部を200mmか、250mmから選択可能

製品詳細はこちら

PHC

おすすめ機種と一押しポイント

バイオハザード対策用キャビネット
MHEシリーズ


作動状況がひと目で確認できるビジュアル・チェック機構付き
作業者の操作性も考慮した優しい設計

製品詳細はこちら

八洲EIテクノロジー

おすすめ機種と一押しポイント

バイオハザード対策用クラスⅡキャビネット
SCV-1309ECⅡA2


JIS/NSF規格対応!WHOガイドラインの「試料配置」も配慮した気流構造でコンタミ抑制
シャッター開口部は ”設置後も” 250mm / 200mmから選択可能

製品詳細はこちら

ワケンビーテック

おすすめ機種と一押しポイント

バイオハザードセフティキャビネット
ClassⅡ Type A2(AC2 G4モデル)


世界的なシェアを持つESCO社の安全キャビネット
最高水準のULPAフィルターを搭載のエントリーモデル

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池田理化では、各メーカーの特長を踏まえ、お客様のご要望や使用環境に合わせた最適な機種をご提案いたします。
初めての導入や機器の入れ替えなど、専門的な知識でサポートいたしますので、お気軽に ご相談 ください。

ご紹介した機種以外にも、幅広い製品を取り扱っております。
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安全キャビネットのよくあるトラブルとその対処法


安全キャビネットの主なトラブルとその原因、対処法をご紹介します。
問題が解決しない場合や一覧にない場合は、メーカーもしくは販売代理店に ご相談 ください。

トラブル 原因 対処法
コンタミする 使用手順」や「注意点」に問題がある
(気流を妨げている、汚染防止が不十分 など)
使用手順や注意点を見直す
  • 送風システムの異常
  • フィルターの目詰まり、ズレ、破れ、劣化(※)
  • 本体のコーキングの劣化(気密性の低下)
販売代理店や専門業者、メーカーに検査を依頼する
風量が弱くなった
  • 排気ファンの劣化
  • フィルターの目詰まり(※)
  • 排気ダクト内のダンパーの故障
販売代理店や専門業者、メーカーに検査を依頼する
蛍光灯または殺菌灯が点灯しない 本体の電源が入っていない 電源を入れる
  • ランプが劣化している
  • グローランプが切れている
ランプまたはグローランプを交換する(交換目安は約1年)
いずれかのランプが既に点灯している 蛍光灯または殺菌灯をOFFにする
【殺菌灯の場合】サッシが開いている サッシを閉める
※ 使用条件によりますが、HEPAフィルターの寿命は1~5年、プレフィルターの寿命は約1年です。なお、バイオハザード防止のため、HEPAフィルターの交換作業前には除染処理が必要です。フィルター交換後は、気流や風速の点検も必要となります。

安全キャビネットの点検方法


安全キャビネットが安定した性能を発揮するためには、点検が不可欠です。日常的に風速や異音の有無などをチェックし、万が一異変のある場合には早急に察知できるようにするとともに、「定期点検」や「随時点検」も行わなければなりません。

JIS規格や法令などでは、有資格者による「定期点検」の頻度や、フィルター交換時などのタイミングで必要となる「随時点検」が定められています。

定期点検

作業者の安全性を確保し、バイオハザードを防止するためには、安全キャビネットがその性能を維持しているかどうか、定期的に確認しなければなりません。
定期点検の頻度については、JIS規格や法令などで以下のように定められています。(いずれも、本記事公開日時点)

  • JIS K3800:2021
    クラスⅡの安全キャビネットについて、1年に1回(腐食性物質を取り扱う場合は1年に2回)の定期検査が求められています。
    ※ 最新情報は「日本規格協会グループHP」をご確認ください。

  • 厚生労働省「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則
    一〜三種病原体を使用する施設においては1年に1回以上の定期点検と、基準に適合する機能の維持が義務化されています。
    また、四種病原体を使用する施設は定期的に点検を行い、基準に適合する機能の維持が義務化されています。
このほかにも、メーカーが基準を設けていたり、「注射剤・抗がん剤無菌調製ガイドライン」で定期点検の頻度について言及されていたりします。

随時点検

定期点検は、安全キャビネットがその性能を維持しているか確認するために重要なプロセスです。加えて、定期点検以外にも随時点検が必要な場合があります。
随時点検を実施すべきタイミングは以下の通りです。

  • 安全キャビネットの搬入・設置後
  • 長期間使用を中止していた場合
  • 安全キャビネットの設置場所の移設後
  • HEPAフィルターなど、装置の性能に関わる部品交換後
  • 運転条件変更(調整)後
  • 運転状態に異常や不安を覚える場合
随時点検において必要な検査項目は、ケースによって異なります。安全キャビネットの販売代理店やメーカー、専門業者に確認し、適切な随時点検を実施しましょう。

点検は専門業者に委託

安全キャビネットの定期・随時点検は、明確な異常の有無にかかわらず、資格を持った専門業者に依頼する必要があります。日常的な点検とは別に、有資格者による点検も必ず実施するようにしましょう。

また、安全キャビネットを廃棄する際も、専門業者による燻蒸作業などが必要です。何の処置もしないまま、産業廃棄物としてそのまま捨てることはできません。
安全キャビネットの点検や廃棄の際は、法令やJIS規格で定められたルールに従い、専門業者による確実な対応が必要です。必ず販売代理店やメーカー、専門業者に相談するようにしましょう。


池田理化では、煩雑な手配が必要となる複数メーカーの点検手配や複数台の一括点検など、さまざまなケースにも対応可能です。
信頼のおける専門業者を通して、お客様に最適なサービスをご提供いたします。安全キャビネットの点検や廃棄の際は、まずはお気軽にご相談ください。








まとめ

本記事では、安全キャビネットの基本や選定ポイントを中心に、使用方法や注意点、想定されるトラブル・対処法などをご紹介しました。

安全キャビネットは生物や環境に有害な物質を取り扱う際、バイオハザードを未然に防ぎ、作業者の安全性を確保するために必須の装置です。装置の性質を把握し、適切な機種選定を行うとともに、正しく安全な使用をするための参考となりましたら幸いです。

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