2024.5.15
分光光度計は、幅広い分野で活用され、その種類も用途に合わせてさまざまなものがあります。この記事では、どのような仕様の装置を選べばいいのか迷っている方に向けて、分光光度計の原理・仕組みや種類、選び方のポイントまで詳しくご紹介いたします。
池田理化ではお客様のさまざまなご要望にお応えできるよう、幅広い種類の分光光度計を取り扱っています。(参照:オンラインカタログ「
紫外・可視分光光度計」)
装置選びにお悩みの際は、池田理化にご相談ください。目的に応じた最適な分光光度計のご提案、そしてトラブル発生時の対応も行っています。
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目次
分光光度計とは
分光光度計(※1)は、さまざまな波長の混合である光を単色光(※2)に分けてサンプルに照射することで、波長ごとの透過や反射を測定する装置です。これらの値をグラフで表したものは「スペクトル」と呼ばれ、物質はその種類や状態によって固有のスペクトルを示します。これを利用し、分光光度計は物質の同定や分子構造の解析など、さまざまな解析用途に用いられます。
また、Lambert-Beerの法則を用いて、サンプル溶液の濃度を定量することも可能です。Lambert-Beerの法則とは「ある物質を光が通過するとき、吸光度は物質の濃度と吸収層の厚さに比例する」という法則です。この関係を表した式に、サンプルの吸光度を当てはめることで、その濃度を求めることができます。
※1… ここでは紫外可視近赤外分光光度計のことを指します
※2… 単一の波長から成る光のことですが、理想的な状態であり実在はしません。実際には単色光と言っても波長に幅が生じます。レーザーや分光器によってそれに近い状態の光を作ることができ、ここでは分光器によって特定の波長のみとなった光を「単色光」と呼んでいます。
分光光度計に関する基本用語
はじめに、分光光度計に関する基本的な用語について解説いたします。
透過率とは
サンプルに入射した光のうち、どれくらい光が透過するかを表した数値です。膜厚や色などの測定に用いられます。式は以下の通りです。
- 透過率(T)=透過光強度(I)/ 入射光強度(I0)
- パーセント透過率(%T)= I / I0 ×100
吸光度(Absorbance ; Abs)とは
特定の波長の光が物質を通過したときにどれくらい光が吸収されるかを表す値です。光学密度(Optical density ; OD)と呼ばれることもあります。濃度や含有量、濁度などの定量分析に用いられます。
吸光度は以下の式によって、透過率から求めることができます。したがって、透過率100%のとき吸光度は0、透過率10%のとき吸光度は1、透過率100%なら吸光度は0となります。
なお、透過率かパーセント透過率かによって換算式が異なるので、混同しないよう注意しましょう。
- 吸光度(A)= log10(1/T)= log10(I0 / I)
- 吸光度(A)= 2-log10(%T)= 2-log10(I / I0 ×100)
反射率とは
サンプルに入射した光のうち、どれくらい光が反射するかを表した数値です。膜厚や色などの測定に用いられます。式は以下の通りです。
- 反射率(R)=反射光強度(I)/ 入射光強度(I0)
- パーセント反射率(%R)= I / I0 ×100
Lambert-Beerの法則とは
吸光度は溶液の「濃度」と「厚さ」に比例するという法則で、以下の式で表されます。
吸光度(A)=εcl
[ ε:モル吸光係数(L・mol-1・cm-1) c:モル濃度 (mol・L-1) l:厚さ、光路長(cm)]
実際の測定では光路長は一定です。また、モル吸光係数は物質固有の定数なので、モル吸光係数が既知であれば、吸光度を測定することで、以下の式から溶液の濃度を求めることができます。
c = εl / A
スペクトルとは
波長ごとの光の強度を測定してグラフ化したものをスペクトルと言います。
たとえば、ある光の強度を波長ごとに示したものは「分光スペクトル」。
波長ごとの透過や吸収、反射の強度を示したものは「吸収スペクトル」「透過スペクトル」「反射スペクトル」と呼ばれます。
また、物質はその種類や状態によって固有のスペクトルを示します。
したがって、スペクトルを調べることで未知のサンプルの同定や分子構造の解析を行うことも可能です。
単純化した例ですが、たとえば未知のサンプルAがあるとき、そのサンプルは物質BもしくはCの可能性があるとします。それぞれが下図のようなスペクトルを示す場合、サンプルAは物質Bの可能性が高いと言えるでしょう。
分光光度計でできる測定と用途
分光光度計は、液体サンプルから固体サンプルまで、環境・食品・工業・化学・生物などさまざまな分野における測定や分析に用いられます。
たとえば液体サンプルの場合、透過スペクトルや吸収スペクトルなどを用いて、環境水や排水中の金属や残留農薬・微生物などの含有量の調査や、食品の成分分析、医薬品の溶出試験や不純物の定量、核酸やタンパク質の濃度や純度を検査することも可能です。
また、固体サンプルでは、透過スペクトルや反射スペクトルなどを用いて、ガラス基板やフィルター、レンズなどの特性評価や性能検査などにも用いられます。
吸光光度計との違い
分光光度計と吸光光度計の違いですが、それぞれ下記のようなスペックの装置を指していることが多いようです。
- 吸光光度計:分光器にフィルターが用いられており、特定の波長のみの吸光度を求めることができる
- 分光光度計:分光器にプリズムや回折格子が用いられており、任意の単色光を取り出したり、連続的に波長を変えたりすることができる
このことから吸光度に関して、吸光光度計は「特定波長における吸光度」、分光光度計は「照射波長ごとの吸光度」を調べることが目的と言えそうです。微妙にニュアンスは異なりますが、似通った用途のため、「分光光度計と吸光光度計は同義」という解釈もあるようです。製品名は参考情報として、必要な機能から装置を選定するのがよいでしょう。ご不安のある場合は、一度ご相談ください。お客様の用途に最適な機種をご紹介いたします。
分光光度計について相談してみる
※ 当記事では上述の定義での「分光光度計」をメインに、「吸光光度計」に該当する装置も含めて解説いたします。
分光光度計の原理と仕組み
分光光度計は、主に光源・分光器・検出器で構成され、そこにサンプルを設置して測定を行います。サンプルが液体の場合は、セル(キュベット)という容器に入れてからの設置が必要です。
光源であるランプから光が照射されると、光は分光器によって波長ごとに分けられ、単色光になります。単色光をサンプルに照射し、透過・反射した光を検出器で検出することで、透過率や吸光度・反射率を算出します。
光源(ランプ)
光源から放射される光は、さまざまな波長の光から成る多色光です。光源となるランプにはさまざまな種類があり、それぞれ放射する光の波長範囲が異なります。そのため、測定したい波長範囲に合わせてランプの種類を選ぶ必要があります。
タングステン・ハロゲンランプ (Tungsten halogen ; WX)
一般的な白熱ランプと同じく、フィラメントに電流を流すことでフィラメント自体が高温となり発光します。波長範囲は可視領域から近赤外領域まで幅広く、安定した光を得ることができます。
- 波長範囲:350~3500 nm程度
- 一般的な寿命:約2,000~3,000時間
重水素放電管 (Deuterium discharge tube ; D2)
数百Paの重水素をバルブに封入した放電型のランプです。点灯電源は複雑かつ大型で、ハロゲンランプと比較すると高価ではありますが、紫外領域でエネルギーが高く安定した光を得ることができます。
- 波長範囲:185~400 nm程度
- 一般的な寿命:約350~1,000時間
キセノンランプ (Xenon ; Xe)
キセノンガスをバルブに封入した放電型のランプです。高価で出力変動がありますが、太陽光に似た分光分布を示し、高輝度で、紫外領域から近赤外領域までの幅広い領域で光を得ることができます。
- 波長範囲:185~2000 nm程度
- 一般的な寿命:約500~2,500時間
キセノンフラッシュランプ (Xenon flash ; Xe)
高速で光の放射を繰り返すパルス点灯を行うキセノンランプで、小型で発熱が少ないという特徴があります。測定時のみ点灯するため、寿命が長く、通電して予熱する時間がいりません。出力変動は大きいですが、測定時以外はサンプルに光が照射されないので、光退色性のあるサンプルの測定にも適しています。
- 波長範囲:185~2000 nm程度
- 一般的な寿命:長寿命
低圧水銀ランプ
分光器は定期的に波長校正を行う必要があります。低圧水銀ランプは分光器の波長表示値の校正に用いられる光源のひとつです。校正に使用される輝線(※3)には、254 nm、365 nm、436 nm、546 nmなどがあります。
校正用ランプは他にも種類があります。分光器の波長範囲に応じて、最適なランプを選びましょう。
※3… スペクトル中の特定の波長で強度が強い部分。原子から発せられる光で、それぞれの元素に固有。
分光器
分光光度計の分光器は、任意の波長のみを単色光として取り出すためのパーツです。分光器にはいくつかの種類があり、それぞれ特性が異なります。
一般的には回折格子が使われている装置が多いです。
光学フィルター
光学フィルターは波長が固定ですが、それ単体で特定の波長のみを透過させることができ、以下のような特徴があります。
- メリット
シンプルな構造で、安価。機種によっては複数のフィルターを入れ替えられるので、用途が限定的であれば、ある程度まで対応可能。
- デメリット
固定波長でしか使えない。フィルターの入れ替えが可能な場合も、対応している特定の波長のみでしか使えない。
また、回折格子と組み合わせて、不要な波長(迷光)のカットに使用されることもあります。
特定の波長のみを透過させることができる性質を利用して、波長や吸光度の校正にも用いられます。
プリズム
プリズムに用いられる水晶や融解石英は、波長ごとに屈折率が異なります。この性質を利用して分散させた光から、スリットを通して特定の波長のみを取り出します。
175~2700nm程度の波長が分光可能です。
- メリット
フィルターのように波長が限定されないため、汎用性が高い。また、回折格子と比べて、迷光などが少なく、光効率が高い。
- デメリット
フィルターと比べて、高価。回折格子と比べると、分散度が波長によって異なり、紫外領域は大きく、可視領域~近赤外領域は小さい。また、温度によって屈折率が変化するため、温度依存性が高く、使用環境には注意が必要。
回折格子
回折格子の表面には1mmあたり数百~数千本もの溝が平行・等間隔に刻まれており、表面で回折(※4)した光は、干渉(※5)により波長ごとに異なる方向で強まります。
また、その角度を変えることで、特定の波長のみをスリットを通して取り出すことができ、1枚で広い範囲の波長が得られます。
- メリット
フィルターのように波長が限定されないため、汎用性が高い。また、プリズムと比べて、1枚の回折格子で広い範囲の波長が得られ、分散はすべての波長で均一。温度依存性も低い。
- デメリット
フィルターと比べて、高価。プリズムと比べて迷光などが多いと言われるが、近年改善されつつある。
※4… 波長が同程度の大きさやそれよりも小さな障害物に当たったり穴を通った後に、その先に広がって進んでいくこと
※5… 複数の波長の山と谷が重なりあい、お互いに波を強め合ったり(山と山)、打ち消しあったり(山と谷)すること
試料室(サンプル室)
試料室には、測定の目的や手法に応じたサンプルホルダおよびアクセサリを設置してから、測定したいサンプルを設置します。
多くの場合、上位機種ほど汎用性が高く、温度調節や多検体、オートサンプラーなどにも対応することができます。
検出器
サンプルを透過、または反射した光は、検出器で検出されます。検出器にもいくつかの種類があり、それぞれ感度や波長範囲が異なります。そのため、測定したい波長範囲に対応した検出器で測定を行う必要があります。
光電子増倍管 (Photomultiplier tube ; PMT)
紫外領域から可視領域まで感度がある光電管と、増幅器を備えた検出器です。感度が非常に高いため、微弱光の検出にも適しています。
シリコンダイオード (Silicone diode ; Si)
半導体を使用した検出器で、紫外領域から近赤外領域の測定に使用されます。光電子増倍管に比べて小型で低価格です。感度も一般的な測定には十分であることから、汎用性の高い検出器です。
InGaAs ダイオード (Indium gallium arsenide diode ; InGaAs)
インジウムガリウムひ素(InGaAs)の化合物半導体を使用した検出器で、シリコンダイオードに比べて、より長い波長の光を吸収することが特徴です。近赤外領域の測定に用いられます。
PbS 光導電素子 (Lead sulfide photoconductive element ; PbS)
光の照射によって電気伝導度(抵抗)が変化する光導電現象を利用した検出器です。前述の近赤外領域まで測定可能なInGaAsダイオードよりも、さらに広く長い波長域まで測定が可能です。
分光光度計を選ぶ3つのポイント
ここまで光源や分光器、検出器にはさまざまな種類があることを解説しましたが、それによって構成されている分光光度計も多種多様です。分光光度計の調達や買い替えを行う場合には、そうした中から、自分たちが実施したい測定に合ったものを選択する必要があります。そこで、分光光度計を選ぶ際に注目したいポイントをまとめました。
1.どの波長域が必要か
分光器の波長範囲は、大きく分けると紫外線領域(UV)、可視光領域(Vis)、近赤外領域(NIR)、中赤外領域(MIR)の4つです。
実施したい測定の内容によって、必要となる波長域は異なります。以下で簡単に代表的な使用例をご紹介いたします。
紫外線領域(UltraViolet ; UV)
紫外線領域は、吸光度測定や薄膜の膜厚測定などに適しています。紫外線領域に対応している光源(ランプ)は、重水素放電管やキセノンランプ、キセノンフラッシュランプなど。近年は、プラズマ光源やLEDも使われるようになっています。
可視光領域(Visible ; Vis)
人間の目でも認識できる可視光領域は、色測定や比色測定、食品検査など、幅広い測定に用いられます。分光分析の測定ニーズが最も高い領域であることから、他の領域と比べて機器や関連製品を比較的安価に揃えられることが特徴です。
近赤外領域(Near InfraRed ; NIR)
赤外線領域の中でも波長が短く、可視光領域に近い波長帯を指します。近赤外領域の光は、可視領域に比べて透過しやすい性質があり、測定対象の深くまで光を浸透させることができるため、食品や医薬品の成分分析などに多く使われています。また、水の吸収波長があり、水分量の分析も可能です。固体や液体だけでなく、気体の測定もできることから、ガス分析などにも利用されています。
中赤外領域(Mid InfraRed ; MIR)
中赤外領域は、赤外線領域のうち2500~25000nmの波長帯を指します。この領域のうち「指紋領域」と呼ばれる波長域では、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定を行うことができます。
その他
分光光度計には、ほかにもやや異なる原理や特徴を持った装置があります。たとえば蛍光分光光度計は、励起光をサンプルに当て、サンプルから発せられた蛍光を検出して、そのスペクトルや蛍光の強度から定性および定量を行います。
さらに特殊な分光光度計として、フーリエ変換赤外線分光光度計(FT-IR)やラマン分光光度計、原子吸光光度計などもあります。
2.サンプルの種類や数、量はどれくらいか
温度管理が必要なサンプルの場合、恒温セルホルダや空冷ペルチェセルホルダなどの温度制御装置が必要です。サンプルが多量にある場合は、多検体やオートサンプラーに対応した機種がよいでしょう。
これらには対応可能な機種とできない機種があります。将来的に必要となる可能性のある場合は、オプションによる拡張が可能な機種を選ぶのがおすすめです。
また、サンプルが液体の場合、測定に使用できるサンプル量によって、セルを用いた測定がよいのか、セルを用いない測定がよいのかが決まります。
サンプル数の多い場合は、マイクロプレート対応機種を検討してもよいでしょう。
サンプル量が十分にある場合
サンプルの量が十分ならば、セル(キュベット)を用いて測定するタイプの分光光度計が選べます。セルタイプの機器は比較的安価な傾向にあるため、初期コストを抑えられることがメリットです。
また、セルの素材は主に3種類あり、それぞれ以下のような特徴があります。
- 石英ガラス製
最も高性能。ガラス製よりも透明度が高く、広い範囲の波長に対応可能。高価。
- ガラス製
紫外光を吸収してしまうため、紫外領域の測定には不向き。プラスチック製よりも耐薬品性が高く、石英ガラス製よりも安価。
- プラスチック製
価格が手ごろなディスポタイプ。サンプルに有機溶媒などを含む場合には変性してしまうため、要注意。
紫外光や赤外光を吸収してしまう場合が多く、これらの測定には不向き。紫外光を吸収しないタイプもあるため、測定可能な波長域の確認が必要。
一般的には「10mm角セル」と呼ばれる光路幅10mmx光路長10mmのセルが用いられますが、サンプルの量が少ない場合には、少量サンプル用の「ミクロセル」を用いることもできます。
セルの光路長にも種類があり、サンプル濃度が低く十分な吸光度を得られない場合は、光路長の長い「長光路長セル」を用いて測定を行います。
より精度の高い測定を行いたい場合や高吸光度なサンプルを測定したい場合は、セルの壁面で発生する透過光や散乱光を抑えることができる「ブラックセル」を用いるとよいでしょう。
このように、さまざまな材質や形状があるため、用途に合わせて最適なセルを選びましょう。
サンプル量が極めて少ない場合
主に生物系の実験ではセルでの測定に十分なサンプル量を得られないことも多いです。そのため、セルを使用せず、わずか1滴、1~2 µLのサンプル量で測定可能なタイプの装置もあります。
こうした微量タイプの分光光度計では、台座に直接サンプルを滴下し、押しつぶして測定します。
中には、最小0.3µLで測定できる超微量タイプの装置もあります。貴重なサンプルを取り扱う場合は、このような微量分光光度計を検討してもよいでしょう。
3.測定精度をどこまで求めるか
高度な測定が必要な場合、波長や測光の正確さ、バンド幅(※6)、迷光などのスペックにも注目しましょう。これらの条件は、光源や分光器、検出器の種類のほか、装置を構成する光学系によっても変わります。
※6… 分光器から出てくる光は「単色光に近い光」です。設定した波長が最大強度となりますが、実際にはそのピークを中心として波長に幅があります。このとき最大強度の半分の強さにおける波長の幅を「スペクトルバンド幅」と呼びます。たとえば「300nm、バンド幅2nm」なら「299nm~301nm」の波長幅を含む光となります。なお、バンド幅はスリット幅に依存し、狭い方が分析能力は高いですが、シグナルは弱くなりノイズも増えるため、狭いほどよいわけではありません。
シングルモノクロとダブルモノクロ
分光光度計には、モノクロメータ(プリズムや回折格子 ※7)を1つ搭載したシングルモノクロと、2つ搭載したダブルモノクロがあります。
特定の波長の光を取り出す際、反射などで他の波長の光(迷光)が紛れ込んでしまい、測定の精度を低下させてしまうことがあります。特に吸光度の高いサンプルの場合、微弱な光を検出しなければならないため、迷光の影響が大きくなります。
ダブルモノクロでは再度分光器を通すことで、純度の高い単波長を得ることができるため、吸光度の高いサンプルでも精度良く測定することが可能です。したがって、希釈調整ができない固体サンプルでも重宝されます。
光学系が複雑になるため、ダブルモノクロの方が高価ですが、目的とする測定内容によってはダブルモノクロの性能が必要となります。
※7… ご紹介した「分光器」のうち、光学フィルターは「モノクロメータ」ではありません。
シングルビームとダブルビーム
分光光度計では、時間経過に伴う光源の揺らぎ等に起因する測光値の変動(ドリフト)が生じます。正確な数値を得るためにはドリフトによる影響を補正しなければなりません。
シングルビームは、分光器で分光された単色光がそのままサンプルに照射され、検出器に入る方式です。上図のように試料室がひとつしかないため、測定波長を変えるごとに対照とサンプルを入れ替えて、補正を行います。しかし、ドリフトによる影響をリアルタイムに補正することはできないため、以下のような測定には不向きです。
- 経時変化や温度変化などの時間変化測定
- 多検体などの理由で補正から測定までに時間を要する測定
- 高精度な測定
一方、ダブルビームの場合、単色光をハーフミラーなどで分岐させ、対照とサンプルを同時に測定することが可能です。したがって、リアルタイムにドリフトの影響を補正することができ、長時間の安定した測定や高精度な測定に向いています。ただし、光学系が複雑になるため、ダブルビームの方が高価です。
分光光度計は、古くから活用されている理化学機器です。池田理化では、シンプルで低価格なタイプから高精度なタイプまで各社のさまざまなラインナップを取り揃えていますので、用途やご予算に合った機種選びに迷った際は、是非一度池田理化にご相談ください。
最適な分光光度計を提案してもらう
分光光度計でよく起きるトラブルの原因とその対処法
分光光度計で発生するトラブルはさまざまです。下記はあくまでそれらのトラブルの一例としてご参照ください。
サンプルやセルの状態、測定条件が正しくないケース
サンプルやセルの状態、測定条件が正しくないと、下記のような現象が発生することがあります。
よく起きる事象
- 測定値が安定しない
- 測定誤差が生じる
- 試料の吸光度がマイナスになる
対処法
上記のような現象が見られる場合は、下記の点を見直してみてください。
1. サンプルの状態を見直す
① pHや温度など試料の状態が安定するよう調整する
② 不純物を取り除く
③ 呈色反応などの化学反応を伴う場合、反応の阻害物質を考慮する
2. セルの状態を見直す
① 実施する測定に最適なセルを選択する
② セルに汚れや傷がついている場合は取り除く
③ ひどく劣化しているセルの場合は新しいものに取り換える
④ セルを入れる方向を揃える
3. 測定条件を見直す
① 測定範囲の上限・下限を最適化する
② 呈色反応などの化学反応を伴う場合、反応時間や温度に気を付ける
③ 検量線を引く場合、正しくポイントが取れていることや標準液の劣化に気を付ける
④ 蓋が閉まり切っておらず、外からの光が装置内に漏れ出していないか確認する
ベースラインの設定を誤っているケース
ベースラインの設定を誤っていると、下記のような現象が発生することがあります。
よく起きる事象
- パーセント透過率が100を超える
- ベースラインが浮く
対処法
お使いの装置や実験条件に合わせて、溶媒の透過率や装置固有の分光特性を補正するため、0%T補正を行い、ベースラインを設定し直しましょう。
装置初期化時の異常
移設や模様替えなどで装置を初期化した際、下記のような現象が発生することがあります。
よく起きる事象
対処法
以下のような点を確認してください。
- 試料室のセルホルダに、光を遮るものが入っていないか?
- 試料室のフタが開いていないか?
- ランプが点灯しているか?(※ 絶対に直視しないでください)
これらを行っても異常がある場合や、上記以外のケースについては装置の購入先、もしくは、池田理化までお気軽にご相談ください。
装置の不具合について相談してみる
分光光度計のメンテナンス方法
セルの洗浄と保管
セルの材質に合わせて最適な洗浄・保管方法があるので一概には言えませんが、共通して重要なことはとにかく「傷をつけない」「変性させない」ということです。
使用後は蒸留水で十分に洗って水を切り、柔らかい布などで優しく拭き取ります。研磨剤入りの洗剤はもちろん、アルカリ性洗剤も使用しないでください。また、セルが破損してしまうこともあるため、超音波洗浄も厳禁です。
なかなか汚れが落ちない場合は、セルメーカーの専用洗剤を使いましょう。普段から「汚さない」「傷つけない」よう繊細に扱い、指紋にも気を付けてください。
保管の際は、デシケータに入れておくか、蒸留水やエタノール(※8)を満たした容器に完全に沈めて蓋を閉め、清潔な場所に保管しておきましょう。
最適な洗浄・保管方法は材質等によって異なる場合があります。上記は参考情報とし、ご使用のセルに合わせたご利用をお願いいたします。
※8… 一般的には70~80%エタノールが良いとされています。
光源(ランプ)のメンテナンス
ランプの汚れチェック
光源ランプにホコリが付着していると、光量が低下してしまいます。装置を使用する前に光源ランプが汚れていないかチェックするようにしましょう。
電源をつけたあとはランプが熱くなっていて危ないので、電源を切ってランプの温度が下がった事を確認後、ホコリを拭き取っ て下さい。また、ランプは絶対に直視しないでください。
セルと同様、ランプ表面に指紋をつけないため、素手で触らないよう気を付けましょう。
ランプの劣化チェック
光源ランプが劣化していると、十分な光量を得られない場合があります。各ランプの使用推奨時間を目安に定期的な交換を行いましょう。
起動後にランプを交換する際は、ランプを直視せず、電源を切ってランプの温度が十分に下がってから行ってください。
また一般的に、ランプを安定させるため、ランプの交換後は一定時間以上通電する必要があります。通電時間はお使いの光源ランプに合わせて対応してください。
その他のメンテナンス
その他にも「入射・出射側の窓板や試料室、カバーなどがサンプルで汚れていないか?」「ファンにほこりがたまっていないか?」など、きれいな状態が保てているかチェックしましょう。
装置を使用していないときはカバーをかぶせるだけでなく、ちりやほこりの多い場所での保管は避けましょう。また、振動や直射日光、温度、湿度、有害ガス・磁気の有無などにも注意してください。
分光光度計は繊細な装置です。こまめなクリーニングや、定期的な部品交換を行うことで正しく使用することができます。
池田理化ではセル専用の洗剤や、交換用の光源ランプも取り扱っています。日々のご利用でお悩みの際はぜひ一度ご相談ください。
分光光度計のメンテナンスについて相談する