2024.2.15
近年、さまざまな法律の施行や改正に伴い、試薬管理の重要性はますます高まっています。その一方で、人員不足や試薬管理ルールの構築状況により、対応に苦慮する現場の方は多いかと思います。
そこで本記事では、これからの試薬管理に求められる対応や、試薬管理を適正かつ効率的に行うための試薬管理システムについて詳しく解説します。
また、池田理化では試薬管理に関わる法規制や工数削減のご相談から、管理者だけでなく使用者も使いやすい試薬管理システムのご提案も可能です。
「人の手による管理の限界」「本来の研究・開発業務にかける時間が減りつつある」「法規制の改定頻度が高く対応に追われる」などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
試薬管理について相談してみる
目次
試薬管理の重要性について
薬品には非常に多くの種類があり、その中には毒物・劇物・危険物に指定されているものや、環境に悪影響を及ぼすものなどが多く含まれています。
そのため、それらの取扱方法や管理方法は法律で定められており、利用者は定期的な棚卸をはじめとする試薬管理を徹底し、盗難や紛失事故の防止、適切な廃棄などに努める必要があります。
特に企業や大学では社会的な責任としてそれらの法律を遵守するため、組織としてしっかりとした管理フローを設けなければなりません。
ノートやExcelによる試薬管理について
簡単に始められるのは台帳やExcelなどを使った管理方法ですが、以下のようにさまざまなリスクをはらんでいます。
台帳の場合
- 記載漏れやミス、集計ミス
- Excel入力時の転記ミス
Excelの場合
- 入力漏れやミス
- 担当者の異動・退職によりマクロや関数の変更ができず、継続的な使用が困難
また、法改正が行われた場合は自分たちでルールをアップデートする必要があり、運用には大きな負担がかかります。
こういった負担を軽減しながら、試薬管理を常に適切な手順で行っていくためには、専用の管理システムの導入がおすすめです。
試薬管理業務を行う人に求められる要件
2024年4月には「化学物質管理者選任義務化の法令改正」が施行され、組織の中で試薬管理に責任を持つ「化学物質管理者」の選出が義務付けられます。
化学物質管理者には、大きく以下の2つの職務が求められ、試薬管理はますます重要なミッションとなります。
- 自社製品の譲渡・提供先への危険有害性の情報伝達
- 自社の労働者の安全衛生確保
こうした職務を果たすためには、法令や化学物質に対する理解の深さに加え、リスク対策や事故発生時のマニュアル化、それらの周知や教育といった業務の遂行が必要です。多くの薬品を有していたり、組織が大きく複数部署が関わったりする職場環境では複数人で役割を分担し、効率的、網羅的に管理体制を整えていくことが求められるでしょう。
活かせる資格
法律などで、試薬管理に必要な資格として定められているものは特にありません。しかし、以下のような資格を持つ人であれば、その専門知識が試薬管理に活かせます。
- 毒物劇物取扱責任者:毒物や劇物の取り扱いや管理についての専門知識が活かせる
- 危険物取扱者:危険物の取り扱いや保安についての専門知識が活かせる
他に、薬剤師や有機溶剤作業主任者が持つ専門知識も試薬管理に活かせる場合があります。
試薬管理に関連する代表的な法規制
試薬管理には、複数の法規制が関連します。この章では、代表的な法規制を紹介し、それがどのように試薬管理業務に関連するのか簡単に解説します。
労働安全衛生法(安衛法)
安衛法は、職場における労働者の安全と健康の確保を目的とした法律です。その中で、労働者に危険もしくは健康障害を生ずるおそれのある指定の危険物や有害物について、それらを取り扱う際に必要な設備や環境、義務として行うべきリスクアセスメントなどが定められています。
出典:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索
毒物及び劇物取締法(毒劇法)
毒劇法は、一般的に流通する有用な化学物質のうち、主に急性毒性による健康被害が発生するおそれが高い物質を毒物または劇物として指定し、保健衛生上の観点から規制を行うことを目的とした法律です。この法律で毒物または劇物として指定される薬品は、施錠できる保管庫での保管や、管理簿の作成と5年間にわたる記録の保存、譲渡時の身分確認などが義務付けられています。
出典:毒物及び劇物取締法 | e-Gov法令検索
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)
化審法は、人の健康を損なう、または動植物の生息や生育に支障を及ぼすおそれのある化学物質による、環境の汚染を防止することを目的とした法律です。具体的には、環境への影響が見込まれる化学物質について、その分解性や蓄積性、毒性、環境中での残留状況などの性状に応じた規制と措置として、製造や輸入数量の届出や使用制限などを定めています。
出典:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 | e-Gov法令検索
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)
化管法は、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律です。対象の化学物質を排出あるいは移動した際には、その量を把握して国に届出る義務があることや、対象の化学物質などを他の事業者に提供した際に、安全データシート(SDS)を発行する義務があることを定めています。
出典:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律 | e-Gov法令検索
消防法
消防法は、防火や消防において必要な規制を定めた法律です。その中で、危険物として指定する物質について、貯蔵や取扱、運搬方法を定めています。消防法上の危険物には、それ自体が発火または引火しやすい危険性を有している物質に加え、他の物質と混在することによって燃焼を促進させる物品も含まれています。
出典:消防法 | e-Gov法令検索
高圧ガス保安法
高圧ガス保安法は、高圧ガスによる災害を防止するために、高圧ガスの製造や貯蔵、移動、そのほか取り扱いに関する規制などを行う法律です。この法律の中で高圧ガスとして定められるものに対して、それらを消費する際の届出の必要性や、消費するための設備の基準、廃棄の方法、緊急時の措置などについて定めています。
出典:高圧ガス保安法 | e-Gov法令検索
水質汚濁防止法(水濁法)
水濁法は、公共用水域や地下水の水質汚濁を防ぐ目的で定められた法律です。その中で、人の健康や生活環境を害するおそれのある有害物質を指定し、工場や事業所に対して、排水に含まれる有害物質の量の制限や、届出や記録の義務などを規定しています。
出典:水質汚濁防止法 | e-Gov法令検索
これからの試薬管理に求められる「リスクアセスメント」
前章の「試薬管理業務を行う人に求められる要件」でも触れたように、これからの試薬管理には、より徹底したリスク対策が求められるようになっていきます。
この章では、試薬管理に関するリスクアセスメントについて解説します。
リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、労働者が安全に就業できるようにリスク管理を行うことを言います。具体的には、作業における危険性または有害性を特定し、それぞれのリスクを見積もって、そのリスクの低減措置を講じ、実施します。さらに、実施した措置やその結果を記録して見直し、ノウハウを蓄積していくというのが、リスクアセスメントの一連の流れです。
出典:リスクアセスメント[安全衛生キーワード](厚生労働省)
試薬管理にリスクアセスメントが求められる背景
国内で使用されている化学物質は、数万種類に及びます。その中には、法律などで規制されていない物質もありますが、だからといって必ずしも安全というわけではなく、危険性や有害性を持つ物質も多く存在します。
化学物質を原因とする休業4日以上の労働災害は、年間で450件ほど起こっていますが、実はそのうち8割が規制対象外の物質によるものです。
「規制対象外だから安全」という誤った認識がそうした災害を招いていることから、リスクアセスメントに基づいた自律的な管理の必要性が叫ばれているのです。
出典:労働安全衛生法に基づく化学物質管理の考え方と留意点(厚生労働省)
法改正で変化する試薬管理
規制対象外の物質による労働災害を減らすため、労働安全衛生法(安衛法)では、2016年から指定薬品のリスクアセスメントが義務化されました。さらに、2023年4月1日にはその対象物質を大幅に増やし、化学物質の自律的管理に関する追加ルールも盛り込んだ「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」を施行しました。
そこには、以下のような項目が追加されています。
具体的には、「リスクアセスメント結果を踏まえて労働者がばく露する濃度を基準値以下とする」「化学物質を取り扱う労働者に適切な保護具を使用させる」といったことが求められるようになっています。
さらに、衛生委員会においては、「リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置」「健康診断結果やそれに基づく措置」が審議事項として新たに追加されます。また、これまで一部の業種で省略されていた雇用時の危険有害作業に関する教育の規定が撤廃され、改正後は全ての業種において、安全衛生に関する教育が義務付けられます。
こうした法改正への対応で試薬管理のあり方が大きく変わると、本業である研究活動の時間が奪われてしまうといった事態が起こることも考えられます。そうした事態を避けるためには、試薬管理システムの導入や見直しは非常に有効です。
池田理化ではリスクアセスメント実施に関するご相談から、課題解決に向けたご提案を行うことが可能です。「リスクアセスメント実施で何から手を付ければいいかわからない」「法改正に対応できているか不安」などのお悩みがございましたら、まずはお気軽にご相談ください。
リスクアセスメントや法改正について相談してみる
業務効率を上げる「試薬管理システム」
試薬管理システムでは、所有している薬品のプロフィールや保管場所、保管量、薬品のリアルタイムの使用状況、廃棄方法や廃棄物リストなどが管理できます。
こうしたシステムで情報を管理することで、国が指定する化学物質についての届出や廃棄の手続きにかかる手間は大きく削減され、業務効率を上げることができます。
試薬管理システムの主な機能とメリット
試薬管理システムにはどのような機能とメリットがあるのかを、以下の表にまとめました。
機能 |
内容 |
メリット |
使用
記録 |
使用した薬品について、その品目名や持出・返却日時、使用者、使用量を自動で記録
|
バーコードを読み込むだけ、電子天秤に載せるだけで使用記録を簡単に記録できる |
法規
対応 |
消防法、毒劇法、安衛法、化管法など、各種法律に対応 |
法規制に準拠した運用が可能 |
在庫
管理 |
薬品の在庫をリアルタイムで把握
在庫の基準数を下回った試薬の通知や開封済み試薬の優先利用などの機能も |
在庫切れや過剰在庫を防ぐ |
棚卸 |
管理用バーコードを読み込み、データと現状を突き合わせ、必要に応じて修正する |
作業の手間と時間を大幅に短縮できる |
集計 |
薬品ごとの使用量や、試薬1本ごとの使用記録を自動で集計
集計データの出力、編集も可能
|
自動で集計されるため、手間やミスがない |
試薬管理システムを選ぶ7つのポイント
この章では、試薬管理システムを比較検討する際に、特に注目してほしい7つのポイントをピックアップしました。
1.使いやすいシステムか
さまざまな管理システムに共通して言えることですが、システムを円滑に運用していくためには「使用者にとって使いやすいシステムかどうか」は最も重要なことのひとつです。
「管理システム」と言う以上「必要な管理項目が満たせるかどうか?」はたしかに重要なのですが、管理することだけが重視されて目的化してしまうと、「その記録をどうやって取るか」といった運用面が軽視されてしまいがちです。
すると使用者に「日々の業務に組み込むにしてはあまりに煩雑な手順を要する」「ソフトウェアが難解で使いにくく引き継ぎしにくい」などの不満が発生し、日常的な利用が困難になることもあります。
システムは導入して終わりではなく、その後の運用がうまく浸透するかどうかが非常に重要です。したがって、使用者にとって使いやすいフローや便利な機能があるなど、「使う側にとってもメリットがあること」が管理と同じくらい重要なのです。
2.法改正に迅速に対応できるか
法改正があった場合に利用者の皆さまが調査対応することなく、その変更内容に迅速に対応できるシステムだと良いでしょう。
定期的なアップデートによる迅速な対応ができるシステムであれば、そのシステムに従うことでスムーズに変更後の運用へ移行できます。一方で、法改正に対応していない場合は運用でカバーしなければならず、都度手間が発生します。
アップデートの頻度や、アップデートに費用が発生するかどうかも確認しておきましょう。
3.業務効率は上がるか
そのシステムを導入することで、実際に業務効率が上がるかどうかも検討したいところです。法改正への対応や所有する薬品の情報管理ができるだけでもシステム導入のメリットはありますが、それだけでなく、他の電子機器との連携やバーコード等の利用、帳票作成などができれば、試薬管理の手間を大幅に削減することができます。
それらによって、たとえば棚卸にかかっていた時間が1/5程度短縮されたり、リスクアセスメントのレポート作成作業が簡単になり、誰にでもできるようになったりと、大きな効率化が見込めます。想定される運用に必要な機能が搭載されているかどうか、確認しておきましょう。
4.カタログデータの豊富さ・追加のしやすさ
自社で使用している試薬のメーカーが1社に偏っている場合は、そのメーカーが提供している試薬管理システムを導入すると、豊富な試薬データが活用できることに加えて、新たな試薬のデータも追加しやすいというメリットがあります。ただし、初期データの構築やデータの最新化、データの追加には、都度費用が発生する場合が多いため、事前の確認が必要です。
一方、必要な情報を効率よく取り込める「データインポートツール」が付いているシステムであれば、自社でデータの追加が可能になるため、データ投入の依頼に関するコストは発生しません。
したがって、データの豊富さやデータの構築にかかるコスト、新規データの追加フローなど、自社で優先すべきことを決め、それを軸として検討することが重要です。
5.導入後もサポートしてもらえるか
システムの導入後に、システム提供会社のサポートや保守メンテナンスがあるかどうかも一つの比較ポイントです。サポートを受けることができれば、システムに関する不明点や困りごと、不具合などがあった場合にも、すぐに相談して解決してもらうことができます。
また、保守メンテナンスは、最適な状態のシステムの維持に役立ちます。サポート範囲は、契約形態や料金プランによって異なることがありますので、事前によく確認しておきましょう。
6.自社にマッチした料金プラン・システム形態を選べるか
試薬管理システムは、各社がいろいろなサービスを提供していますが、その中から自社の予算や条件に合うものを選びましょう。試薬管理システムの料金プランおよびシステム形態は、大きく分けて月額制のクラウドタイプと買い切りのオンプレミスタイプの2つがあります。月額制であれば、費用の中に日々のサポートや保守、アップデートが含まれる場合が多く、買い切りであれば、サポートや保守の費用が別途発生する場合が多いでしょう。
また、システムの使用人数や同時接続が可能かどうか、複数人で使用したい場合のライセンス契約の形態などによっても、料金は異なる場合が多いでしょう。
7.拡張性があるか
一つの部署や事業所からシステムの利用をスモールスタートし、ある程度の運用ノウハウが得られたところで複数の部署や事業所に拡張していきたいという場合は、拡張する際にデータの引継ぎが可能か、どの程度の費用がかかるのか、自社の環境に合わせたネットワーク構成が選択できるかといった観点から、拡張性の良し悪しを評価しておきましょう。
ここまで試薬管理システムを選ぶポイントについてご紹介してきましたが、実際に自分たちの抱える課題をシステムでどれだけ解決できるのかイメージがつかない方も多いと思います。
池田理化ではシステムのご案内だけでなく、お悩み解決のご相談から承っておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。
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