2024.6.18

電子天秤(電子天びん ※1)とは、大学の実験室や研究・検査機関等における精密な質量測定に用いられる機器です。日常、料理などで用いる「はかり」も質量を量るための機器ですが、「天秤」の方がより正確な測定が可能で、実験や検査のように精密な測定が重要となる場面で使用されます。
重さをはかる ための機器というと単純なようですが、さまざまな用途に合わせて多種多様なラインナップがあるため、機種選定に迷われる方も多いでしょう。誤った製品を選択してしまい、知らず知らずのうちに間違った測定をしていた…ということもありえます。
本記事では電子天秤の仕組みや使い方、選び方のポイントを解説いたします。電子天秤の使い方や選び方にお悩みの方のご参考になりましたら幸いです。
池田理化ではご要望に合わせて最適な電子天秤をご提案させていただきます。まずはお気軽にご相談ください。
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※1… 計量業界では「秤」をひらがな表記するのが一般的である。このため、電子天秤メーカーでは「天びん」と表記されているケースが多いが、この記事では「天秤」の表記で統一する。
目次
電子天秤(電子天びん)とは

まずは電子天秤(電子天びん)の使用目的や仕組み・原理についてご説明いたします。
電子天秤の使用目的
電子天秤は、大学の実験室や研究・検査機関における精密な質量測定に使用されます。あまり日常で触れる機会はないかもしれませんが、調剤薬局で薬剤師の方が医薬品の計量に使用している場面を目にすることがあるかもしません。
電子天秤の仕組み・原理
電子天秤の仕組みは大きく下記の3つに分けられます。
ここからは、それぞれの方式の概要とメリット・デメリットについて詳しく解説いたします。
電気抵抗線式(ロードセル式、ストレインゲージ式)

電気抵抗線式の電子天秤には「ロードセル」と呼ばれる部品が組み込まれています。ロードセルとは力を電気信号に変換するための変換器です。
電気抵抗線式のロードセルは、「
起歪体」と呼ばれる金属に「ストレインゲージ(ひずみゲージ)」と呼ばれるひずみを検出するセンサが貼り付けられたシンプルな構造です。
天秤に物質を載せ、力が加わると起歪体が歪み、ストレインゲージの電気抵抗値が変化します(※2)。この電気的な変化を質量に換算することで、物質の質量が表示される仕組みです。
- メリット
シンプルな構造で丈夫/重いものの測定に向いている/低コスト/消費電力が小さい
- デメリット
表示可能な数値は比較的粗い/長期安定性は低い/ウォーミングアップが必要
※2… 金属の電気抵抗値はその伸び縮みによって変化する。ストレインゲージのベース上には金属箔があり、起歪体が歪むとともに伸び縮みする。このひずみによって金属箔で生じる電気抵抗値の変化から、力の大きさが算出できる。
電磁平衡式(電磁式、フォースバランス式)

※ 画像はイメージです
電磁平衡式は、古くから用いられるアナログ式の上皿天秤の構造が内部に組み込まれたタイプです。
上皿天秤の場合は、天秤の片側に測定対象を載せ、もう一方には分銅を載せて、釣り合った際の分銅の質量をその物質の質量とします。一方、電磁力平衡式では電気の力で天秤を釣り合わせるため、分銅は不要です。釣り合ったときの電流の大きさから、電磁力を質量に換算して物質の質量を求めます。
電子天秤の多くに採用されている方式ですが、「フレミングの左手の法則」を利用しているため、重力加速度の影響を受けます。したがって、設置場所の移動に伴って都度校正が必要です。このため簡単に校正ができるよう、分銅を内蔵しているタイプも多いです。
- メリット
軽いものの測定に向いている/分解能が高く、細かい数値まで測定可能
- デメリット
環境や経年による変化を補正する必要がある/消費電力が大きい/ウォーミングアップが必要
音叉振動式

※ 画像はイメージです
音叉振動式では、時計や楽器の音の基準として用いられる金属音叉を利用して物質の質量を測定します。
物質が載ることで生じた周波数の変化をセンサで測り、その周波数を質量と照らし合わせる仕組みです。
- メリット
安定性・再現性が高く、温度変化にも強い/消費電力が極めて小さい/ウォーミングアップ不要
- デメリット
分解能は電磁平衡式にやや劣る(近年、電磁平衡式にせまるものも開発されている)
方式別の簡易比較表
ここまでご説明した各方式の特徴を簡単な一覧表にまとめました。
|
電気抵抗線式
(ロードセル式、ストレインゲージ式) |
電磁平衡式
(電磁式、フォースバランス式) |
音叉振動式 |
秤量 |
大きい |
小さい |
中間くらい |
目量の小ささ |
粗い |
細かい |
中間くらい |
安定性 |
低い |
普通
|
高い |
消費電力 |
小さい |
大きい |
極めて小さい |
ウォーミングアップ |
必要 |
必要 |
不要 |
電子天秤の種類
電子天秤は、さまざまな目的に用いられるため、一概に分類することができません。ここでは、用途や機能、
目量の違いといった観点で電子天秤の名称をご紹介いたします。
用途や機能による違い
以下にご紹介する名称は、基本的には名が体を表しています。ただし、それぞれに明確な定義はないため、機種選定の際は参考情報程度に捉えるのがよいでしょう。
代表的な例をいくつかご紹介いたします。
- 汎用電子天秤
比較的さまざまな用途に使用でき、おおむね平均的な価格であることが多い。シンプルに「電子天秤」と称されていることもある。
- 高精度電子天秤
汎用性が高く、精度の高い(※3)電子天秤全般を広く指す場合が多い。
メーカーによって異なるが、「小数点以下0~4桁に対応した電子天秤」「音叉振動式を採用した電子天秤」などを指す。
- 分析用電子天秤
分析化学などに最適化された機構やアプリケーションを備えている。
ほかにも、大きなものが載せられる台座のある「台はかり」、特定の防止機能が付いた「防爆天秤」「防塵防水天秤」、それぞれの用途に特化した「調剤用天秤」「動物はかり」「個数はかり」などがあります。
※3… 【電子天秤における「精度」とは?】
一般的に使われる「精度」とは、「真度」と「精度」の両方を有していることを指す。「真度が高い」とは、測定値が真の値に近く、正確性が高いこと。「精度が高い」とは、繰り返し測定した際の測定値が一貫しており、再現性が高いこと。したがって、仮に精度「だけ」が高い場合、その測定値は正しいかもしれないが、真の値とは異なる場合もある。このため、計測機器における「精度」には、「精度」と「真度」の両方が必要である。
目量(最小表示)による違い
目量とはその天秤で測定できる最小目盛りのことで、「最小表示」「最小測定単位」とも表されます。アナログはかりで言うところの一目盛りで、隣接する目盛が表す量の差を指します。
目量が非常に小さい電子天秤は、目量が大きい順に「セミミクロ」「ミクロ」「ウルトラミクロ」の3つに分類されます。なお、ミクロは「マイクロ」と表記されることもあります。
一般的に、目量が細かくなるにつれて、製品の価格は高くなる傾向があります。小さい質量の測定や精密な測定ほど、軽微な環境変化の影響を受けやすくなるため、温度コントロールや風防設計、イオナイザーなどの機能が充実しています。(※ 標準搭載している場合と、オプションの場合があります)
各天秤の目量
- セミミクロ天秤 : 10μg
- ミクロ天秤 : 1μg
- ウルトラミクロ天秤 : 0.1μg以下
※ 目量の数値は独立行政法人医薬品医療機器総合機構「9.62 計量器・用器」を参照しています。
最適な電子天秤を選ぶには、使用目的に合わせて「どのようなスペックが必要なのか」を見定める必要があります。一方で判断すべき要素が複数あるため、その選定は容易ではありません。機種選定に迷われた際はぜひ一度ご相談ください。
まずは相談してみる
日本薬局方の改正について(2024/6/28 告示)
2024/6/28より日本薬局方が改正され、一般試験法で使用する電子天秤に対して、一定の「精度(
※3)」が要求されることとなりました。「精度」を確保するためには、最小はかり取り量(※4)が最小計量値(※5)よりもある程度大きくなければなりません。
必要となるスペックは使用目的によって変わりますが、前述した「セミミクロ天秤」「ミクロ天秤」「ウルトラミクロ天秤」などの目量の小さな高精度の天秤が必要となるケースが多いでしょう。
なお、上記の内容はかなり省略した内容となっておりますため、厳密な定義など、詳しくは下記資料の P37 および P90~93 をご参照ください。
第十八改正日本薬局方第二追補(令和6年6月28日厚生労働省告示第238号)(厚生労働省HPへリンク)
ご不明点などございましたら、ぜひ一度
ご相談 ください。
※4 最小計量値… その電子天秤で一定の「正確さ(真度)」「繰り返し性(併行精度)」をもって、はかることができると推定される最小の値のこと。「最小計量値の推定値=2000×標準偏差(*)」という式で求められる。環境や時間経過、測定者によって変動しうるため、定期的なチェックが必要。
※5 最小はかり取り量… その電子天秤で、最小計量値を考慮したうえで、「繰り返し性(併行精度)」を確保できる最小の値のこと。「2×標準偏差(*)÷最小はかり取り量 ≦ 0.10」という式で求められる。
(*10回以上の繰り返し計量を行って算出。ただし「0.41×天秤の最小表示値」(★)よりも値が小さくなる場合は、左記の数値(★)に置き換える。)
電子天秤の使い方と注意点
電子天秤は小さい質量や小数点以下の数値の質量測定までできる機器ですが、正しい使い方をしなければその性能を活かせません。電子天秤全般における基本的な使い方である4ステップを注意点と併せてご説明いたします。
1.電子天秤の水平を確認する

電子天秤は水平になっていないと、正しい測定が行えません。したがって、電子天秤は安定した水平な台に設置します。また、装置自体の水平を取るため、アジャスタで微調整をしましょう。
水平になっているかどうかは水平器を見て判断します。水平器には気泡が含まれており、水平が保たれていない場合、気泡は枠から外れます。中央の枠内に気泡が収まるよう、アジャスタで調整しましょう。上図のように水平器が付いている機種も多いです。
2.風袋引きをして測定対象を載せる

水平の確認ができたら次に風袋引きを行います。風袋とは測定したい物質を載せる薬包紙や容器のことです。
風袋引きを行わないと、測定対象と風袋を合算した質量が測定値になってしまい、その後の分析や検査に大きな影響を与えてしまいます。したがって、風袋を天秤に置いたら、必ずゼロ点調整ボタンを押して、数値が0になっていることを確認してから測定を開始するよう徹底しましょう。
なお、前述の「電子天秤の仕組み・原理」で触れたように、方式によっては機器のウォーミングアップが必要です。使用する機種に合わせて、風袋引きを行う前にウォーミングアップを行いましょう。
3.数値が安定するまで待つ
電子天秤の数値は、測定対象を計量皿に載せてからしばらく変化することもあります。小さい質量の測定や精密な測定ほど、さまざまな影響を受けやすいため、数値の揺れは顕著になるでしょう。測定対象を静かに計量皿に載せたら、数値が安定するまで待ちましょう。
数値変化がいつまでも止まらない場合は、電子天秤そのものが安定していなかったり、使用環境が最適化されていなかったりする可能性も考えられます。ステップ1、2が正しく行われているか、また、後述の「電子天秤が安定しない原因と対処法」に当てはまらないかなどを確認しましょう。
なお、吸湿性のある物質は大気中の水分を測定中にも吸収するため、徐々に数値が上がっていくケースもあります。その場合は待っていても数値は安定しませんので、物質の特性をしっかり把握してから測定に臨みましょう。
4.使用後は必ず清掃をしてから収納する
測定が終わったら、計量皿や外装を拭き取ってから収納します。一回の使用ではたとえ目につかなくても、目に見えない粉体や液体が飛び散っているかもしれません。
特に複数名で使用している場合、クロスコンタミネーション防止や次の作業者の安全性確保のためにも、しっかりと清掃を行う必要があります。使用目的によっては、天秤の清潔さが規制されている場合もあるため、注意しましょう。
拭き取りはティッシュペーパーなどでやさしく行いましょう。計量皿や防風パネル等は水気を含ませたティッシュペーパーを使うと綺麗に拭き取れます。
電子天秤のパーツや機種によっては、70%エタノールやイソプロパノール、中性洗剤などの薬剤を使うこともできますが、必ず取り扱い説明書で使用可否を確認しましょう。
人体に影響のある物質や、清掃に使用する薬剤に反応するような物質を扱った場合は、安全に十分配慮して作業を行ってください。
清掃が終わったら、カバーをかけて埃を被らないようにしましょう。また、戸棚等に収納する場合は、上に物を載せないようにしましょう。電子天秤は非常にデリケートなため、故障の原因となる可能性があります。
電子天秤が安定しない原因と対処法

電子天秤の数値が安定しない理由はさまざまですが、ここでは代表的な要因を3つご紹介します。
静電気の影響を受けている
1つ目に挙げられるのが静電気の影響です。静電気が発生すると、±1~100 mgほどの誤差が発生し、測定に大きな影響を与えます。また、乾燥した粉体はそれ自体や薬包紙も帯電しやすい性質を持つため、測定に苦慮した経験のある方も多いでしょう。
静電気が発生しやすい時期や環境・測定対象においては、その防止策が重要です。静電気対策のできる製品を使用したり、乾燥しにくい環境に調整したりするなどの対策を行いましょう。
静電気が発生する原因
静電気は下記のような場面で発生します。人の感じないレベルにおいても静電気は発生し、測定に影響を及ぼす可能性があります。
- 2つの物質が接触するタイミング
- 物質同士をすり合わせるタイミング
- 接触していたものを剥がすタイミング
- 物質と物質が衝突するタイミング
静電気を防止する方法
静電気の影響を抑えるには下記のような方法が有効です。
- 除電器(イオナイザー)を使用する
- 室内の湿度を45~60%程度に保つ
- 金属シールドで静電気を遮断する
他には、測定時の容器はプラスチックやガラスなどの帯電しやすい材質を避けたり、絶縁靴を履いたりすることも有効です。
振動による影響を受けている
設置場所が振動していると電子天秤の数値は安定しません。特に秤量(最大計測可能重量)や目量(最小表示)が小さい電子天秤ほど繊細で、振動の影響を受けやすいでしょう。
幹線道路に面した場所では車の通った振動でも結果が前後する可能性があります。また、2階以上の建物の場合は、車や風などさまざまな振動の影響を受けます。人の出入りが多い通路沿いやドアの近くも振動を拾いやすいです。
上述のような要素の少ない1階や壁沿い、部屋の奥などに設置するのが理想的ですが、それが難しい場合は除振台の設置を検討した方がよいかもしれません。
風の影響を受けている
アコンや外部からの風も測定結果に影響を及ぼす可能性があります。
エアコンをつけていたり、窓を開けていたりする場合、風が測定対象に直接当たると数値は安定しません。電子天秤はエアコンなどの風が直接当たらない場所に設置し、必要に応じて風防を使用しましょう。外気との温度差による対流の発生にも注意が必要です。
また、エアコンの温風や直射日光が当たると物質の水分量が低下し、質量が変わる原因にもなりえます。そのため、熱を発する機械のそばや直射日光を避けて設置しましょう。
電子天秤のメンテナンスに欠かせない「分銅」とは?

ここまで電子天秤の使い方や注意点についてご説明しました。しかし、電子天秤が性能を発揮するためには、定期的な点検・検査などのメンテナンスも重要です。
ここからはそれらのメンテナンスに欠かせない分銅の取り扱いや選び方についてご説明いたします。
分銅とは?
分銅とは、物質の質量を量るときの基準となるおもりのことで、形状や寸法・最大許容誤差などが規定されています。
電子天秤で正しい測定を行うためには、日々のメンテナンスが重要ですが、使用するたびに専門業者に点検や検査を依頼するわけにはいきません。そこで、電子天秤が正しい性能を発揮できているかどうか、作業者自らがチェックを行うために分銅を用います。したがって、分銅自体の質量も電子天秤と同様に、しっかりと管理しなければなりません。
製品によっては校正分銅が内蔵されたタイプもありますが、正確には「分銅」ではなく、計量法上はその規定から外れた「おもり」の扱いです。また、本体同様に内蔵分銅も経時変化するため、定期的に外部分銅を用いて内蔵分銅のチェックを行う必要があります。
分銅の取り扱い
分銅を取り扱う際は、硬いものにぶつけたり、皿の上を滑らせたりして、分銅を傷つけないように注意しましょう。また、分銅を素手で触ると、手の皮脂や塩分で分銅が酸化して質量が変化してしまうため、取り扱いにはゴムカバー付きのピンセットを用います。重い分銅の場合は清潔なゴム手袋を着用しましょう。
保管の際は、質量増加の原因となるほこりや湿気、腐食ガス等のないところで保管する必要があります。ほこりをかぶったり、傷がついたりしないよう専用ケースに入れ、デシケータ内で保管しましょう。さらに金属ロッカーに入れるとより安心です。
詳細な取り扱いについては各メーカーの説明書に従い、正しく取り扱い、保管しましょう。
分銅の選び方
分銅は、使用用途や電子天秤の性能をもとに最適なものを選択する必要があります。基本的には下記の4ステップで目的に合ったものを選びましょう。
- 点検や検査などの用途を決める
分銅の用途は主に以下の3種類に分けられます。どの用途に必要なのか明確にしましょう。
- 日常点検: 使用前に1~2回/日、よく測定する質量が正しく測定できているか確認する
- 定期点検: 秤量(最大計測可能重量)とその1/2の質量が正しく測定できているか確認する
- 定期検査: 以下3点を確認する
∟ 繰り返し性 …秤量の1/2の質量で3回以上測定する
∟ 直線性 …秤量を4~6等分した質量で各分銅の測定を行う
∟ 偏地誤差 …秤量の1/3の質量で計量皿の中央と四隅に載せて測定する
- 電子天秤の秤量から分銅の質量を決める
天秤分銅の用途が決まったら、電子天秤の秤量に合わせて必要な分銅の質量を割り出します。
- 電子天秤の目量(最小表示)から分銅の等級を決める
分銅には最大許容誤差があり、等級によってその範囲は異なります。電子天秤の目量よりも誤差が±1/3以下になるような等級の分銅を選びましょう。
- 分銅の形状や材質を選ぶ
一般的には円筒型の円筒分銅を用いるケースが多いでしょう。ミリグラム単位以下の精密さを求める場合には板状分銅を用います。
材質は質量変化が少なく、耐久性が高いステンレスがおすすめです。他には黄銅クロムメッキ製や鋳鉄製などがあり、耐久性ではステンレス製に劣りますが、低コストです。
JCSS校正と一般校正について
JCSSとは「Japan Calibration Service System」の略で、計量法に基づいた計量法トレーサビリティ制度のことを指します。JCSS校正とは、この制度に基づいた第三者による校正サービスのことです。
JCSS校正された電子天秤や分銅には、ISO・IEC17025認定された校正事業者による校正証明書・校正結果・トレーサビリティ(※6)体系図が付いています。これは国家基準に適合している証明、また、国際相互承認を受けている国家における正しさの証明にもなります。
なお、電子天秤や分銅のメーカーが校正を行い、証明書等を発行する「一般校正」もありますが、こちらは国際的な正しさの証明とすることはできません。また、校正結果に「校正値」や「拡張不確かさ」が記載されないため、これらが必要な場合は「JCSS校正」を選びましょう。
校正を受けた電子天秤をお探しの際は、池田理化にご相談ください。最適な製品のご案内だけでなく、校正そのものもサポートいたします。
電子天秤の校正について相談してみる
※6 トレーサビリティ… 原材料の調達から生産、消費もしくは廃棄まで追跡可能な状態にすること
電子天秤を選ぶ8つのポイント

電子天秤は、使用用途に合わせて幅広いラインナップがあるため、最適な機種を選ぶのは難しいでしょう。
ここからは電子天秤を選ぶ際に着目したい8つのポイントをご紹介いたします。
1.秤量(ひょう量)と測定対象の大きさ
秤量(ひょう量)とは、その電子天秤で一定の精度をもって量ることのできる最大値のことで、最大計測可能重量とも呼ばれます。秤量付近で繰り返し測定を行うと、ズレや故障の原因になる可能性があるため、それらを避けるためにも、測定対象の質量に対してゆとりのある秤量の電子天秤を選びましょう。風袋を用いる場合は、風袋の質量も加味してください。
なお、一般的に秤量が大きくなるのに伴って
目量(最小表示)も大きくなるため、ゆとりを持たせすぎて必要な目量が表示できなくならないよう注意しましょう。目量については次の項目で詳しくご説明します。
また、測定対象の大きさに適した秤量皿も必要です。風袋を含む積載面よりも大きい計量皿の電子天秤を選びましょう。積載面よりも小さな計量皿の使用は、電子天秤の故障に繋がります。
2.必要な目量(最小表示)
目量とはその電子天秤で測定できる最小目盛りのことで、「最小表示」「最小測定単位」とも表されます。アナログはかりで言うところの一目盛りで、隣接する目盛が表す量の差を指します。
用途によって必要となる小数点以下の桁数は異なるため、目量は小さければ良いというわけではありません。目量が小さいほど、数値が安定するのに時間がかかるため、必要以上に細かい目量の製品を選ぶことで、かえって効率が悪くなってしまうこともあります。
その電子天秤の精度や許容できる誤差範囲等にもよりますが、0.01gの桁を正確に求める必要がある場合は、さらに一桁細かい0.001gが最小表示の電子天秤が適しているでしょう。
3.取引や証明の有無、校正証明書の必要性
電子天秤による測定値を取引や証明に使用する場合、国家検定に合格した「検定証印」または「基準適合証印」付の「特別計量器」に該当する電子天秤が必要です。検定付の電子天秤は、届け出および2年に1度の法定検査が義務付けられています(※7)。
また、「検定付」と「校正証明書付」はまったくの別物です。校正証明書は検定付でない電子天秤に対して校正を行い、その校正結果を証明するための書類です(※8)。校正証明書には「JCSS校正証明書」と「一般校正証明書」があるため、用途に合わせて選択しましょう。詳しくは「JCSS校正と一般校正について」をご参照ください。
なお、正しい測定を維持するためには、外部分銅による定期的な点検・検査が必要です。製品によっては校正分銅が内蔵されたタイプもありますが、正確には「分銅」ではなく、計量法上はその規定を外れた「おもり」の扱いです。また、本体の測定値と同様に内蔵分銅も経時変化するため、外部分銅による点検・検査は定期的に行いましょう(※9)。点検・検査の詳細については「電子天秤の校正に欠かせない「分銅」とは?」をご参照ください。
※7… 各自治体によって届け出方法や法定検査は異なります。
※8… 検定付の電子天秤には校正証明書が発行できないというわけではありません。
※9… 内蔵分銅の取り扱いに関しては、ご使用になられる電子天秤メーカーにご確認ください。
4.防水・防塵・防爆機能、風・静電気・振動対策の必要性
測定対象や環境によっては対策機能が必要です。たとえば、水や粉塵は電子機器である電子天秤には大敵です。測定で水濡れの可能性がある場合や、粉塵が舞う環境で使用する場合は、防水や防塵機能が付いた電子天秤を選びましょう。また、火災や爆発などの危険性のある場所で使用したり、火災や爆発の可能性がある物質を扱ったりする場合は防爆機能が必要です。測定対象によっては、耐薬品性や耐腐食性などにも注意しましょう。
また、小さい質量の測定や精密な測定が必要な場合は、測定値に影響を与える風や静電気を防止する機能が必要です。除電器(イオナイザー)や風防設計のある電子天秤を選びましょう。振動による影響がある場所で使用する場合は、除振台を別途用意し、その上に電子天秤を設置しましょう。
5.計数機能の必要性
電子天秤の中には計数機能付きの機種もあります。大きさや質量が同一であれば、1個あたりの質量をもとに、全体の質量から個数を割り出すことができます。カウンティングのみに使用する場合は、計数専用の機種がおすすめです。
6.電源の種類
電子天秤の電源にはACアダプターのほか、乾電池式や充電式もあります。設置場所の近くにコンセントが確保できない場合は、乾電池式や充電式を選択しましょう。
7.PC、プリンタなどの外部機器との接続
パソコンやプリンタ、データロガーへの測定データの取り込みや、パソコンによる電子天秤の制御を行いたい場合、RS-232CやUSB、Bluetooth等に対応可能な機種を選びましょう。
特に、パソコン制御を行いたい場合は一方向ではなく双方向の通信が必要となるため、双方向の通信に対応しているかどうか確認しましょう。また、Bluetoothのような無線通信は、危険エリアに設置した天秤を遠隔地から操作したい場合などに有用です。使用環境や接続したい機器のインターフェイスに合わせて、それに対応可能な機種を選びましょう。ドライバのインストールや接続設定などの手間はかかりますが、普段の業務効率化に繋がります。
なお、上記のような機能が標準装備されている機種もありますが、オプションになっている場合もあります。別途設定費用がかかる場合もあるため、あらかじめ確認しましょう。
8.アプリケーションノートの有無
滴定サンプルの調整や排ガス試験、水分含有量測定など、電子天秤はさまざまなワークフローの中で用いられます。このようなフローの構築は容易ではありませんが、電子天秤メーカーには蓄積されたノウハウがあり、それらのアプリケーションノートが公開されていることがあるため、参考にするとよいでしょう。
このように電子天秤の選定の際は、さまざまポイントを確認する必要があります。
池田理化は、1931年の創業以来、研究者の皆さまをサポートしてきたノウハウや経験に基づき、常時3,000 社を超える取り扱いメーカーの製品から最適な機器をご提案します。
選び方に迷ったときや、特別なアプリケーションが必要な場合など、電子天秤で分からないことがあれば、ぜひ一度、当社までご相談ください。実験内容や環境に合わせた電子天秤をご提案いたします。