2023.7.28
遠心機(遠心分離機)は研究施設に必須といえる機器です。その種類は多種多様で、冷却機能の有無、回転数、容量、ローターの種類、機器形態の違いなど、用途によって最適なものを選ばなければなりません。
いざ遠心機が欲しいと思っても、カタログを見ただけではどれを選べばよいかわからないという方も多いかと思います。
この記事では遠心機の原理や種類、選定ポイントといった基本情報を詳しく解説します。
商社である池田理化ならではの視点で、機種選定にお困りの方々が研究に最適な遠心機を選ぶために必要な情報をお届けいたします。
目次
遠心機(遠心分離機)とは
遠心機(遠心分離機)とは、遠心力を使って、液体サンプル中の固体や液体成分を分離させる機器です。遠心分離機と呼ばれる場合もありますが、同じ機器を指します。
通常、固体が液体に溶解しない場合、固体と液体の混合物は、放置しておくと重力に引かれ、比重(密度)が大きい順に固体部分 が沈降して液体と固体に分離します。また、密度の異なる2つの液体の場合も同様に2層に分かれます。この現象を重力沈降といいます。
遠心機は、サンプルを高速回転させることで、重力よりも大きな遠心力を発生させるため、重力沈降よりも短時間でサンプルの分離を行うことができます。
遠心力とは
遠心力とは、高速で回転している物体にかかる力です。回転している物体には、物体を移動させる力のベクトルのほかに、向心力と遠心力という2種類の力が働いています。
それぞれの力について説明していきましょう。
回転している物体には、円の接線方向に向けて力が働いています。もしそこに物体を押さえつける力が働いていないと、物体は回転運動をせずに力が働くベクトル方向へ飛んで行ってしまうでしょう。
実際には、回転運動をしている物体には、円の中心に向けて力が働いているといえます。これが向心力です。
またこの物体には向心力と反対側に向けて同じだけの力が発生しています。この力が遠心力です。
例えばハンマー投げでは、この遠心力を利用しています。ハンマー投げでは、投てきの前にハンマーを身体ごと高速回転させます。そして投てきする瞬間、高速で回転しながら手を離すことで、向心力が失われ、ハンマーが遠くまで飛んでいきます。
遠心加速度
遠心力は通常、物体の質量に比例して大きくなります。しかし、遠心機自体が生み出す純粋な遠心力を求めるためには、物体の質量を考慮しない遠心加速度という値を用います。
なお遠心分離の際に用いられる遠心加速度とは、地球の重力を1Gとしたときの相対遠心加速度(RCF)を指します。
相対遠心加速度の計算式は以下の通りです。
RCF=1.118×R×N2×10-6
相対遠心加速度の単位には、「G」または「×g」を用います。Rは回転半径(mm)、Nは1分あたりの回転数(rpm)を指します。
遠心機は回転半径や回転数を増減することで、遠心加速度を調節できます。
この機能があるため、遠心加速度が簡単に調整でき、目的や分離の程度に合わせて、最適な遠心力をサンプルにかけられるのです。
遠心機の原理・仕組み
遠心機の原理
遠心機は、遠心力を使ってサンプル中の成分を分離する機器です。
比重(密度)の異なる成分を含む液体を通常の環境下に置いておくと、比重の大きな成分は下層に沈降し、対して比重の小さな成分がその上層にたまります。これは重力によって発生する重力沈降という現象です。
遠心機は、重力よりも数百倍から数万倍もの大きな遠心力を発生させることで、短時間で目的の成分を分離することができるのです。
遠心機の仕組み
後述するように遠心機には工業用と実験用がありますが、基本的な仕組みは同じです。いずれも本体内部に回転体を備え、それを高速で回転させることで遠心力を発生させます。
この記事では実験用遠心機を中心に説明していますので、ここでも実験用の仕組みについてご紹介します。
実験用遠心機の内部には、ローターと呼ばれる回転体があります。ローターには遠心処理するサンプル容器を格納します。ローターはスピンドルに取り付けられ、駆動部と接続することで高速回転します。
回転数、遠心加速度、時間などの遠心分離の条件はプログラムにより制御されます。
遠心機は重力の数百倍から数万倍もの強い遠心力を利用するため、本体にはローターのアンバランスを検出する等 万が一のトラブル時にも人や実験室の安全性を確保できるような機構を搭載しています。
遠心機の種類
遠心機には、工業用遠心機と実験用遠心機という、2つの種類があります。用途により主にスケールや容量、製品タイプに違いがあります。
ここでは、工業用遠心機と、実験用遠心機について、それぞれの特徴を解説します。
本記事では、実験用遠心機を中心にご紹介しますが、池田理化では工業用遠心機 も取り扱っています。
皆さまの実験・研究に最適な遠心機をご提案いたしますので、お気軽に
お問い合わせください。
工業用遠心機
工業用遠心機は、食品や医薬品、化成品の製造工程などで使用されます。主に遠心沈降型と遠心ろ過型の2種類に分けられます。
遠心沈降型は、通常の遠心機と同じように、遠心力を使って成分の沈降速度を速める働きがあります。液体を分離するために使用され、比重の大きい成分を外側、比重の小さい成分 を内側の排出口から排出します。円筒型とデカンタ型とがあり、円筒型は最大でデカンタ型の約7倍程度の遠心力をかけられることが特徴です。
一方で遠心ろ過型は、粘度の高い固体と液体の混合物を遠心分離することに向いています。布や金属フィルターが使用されているタイプで、遠心力を用いて液体のみを分離し、沈降物の結晶のみがろ過器内に残るという仕組みです。
実験用遠心機(実験・研究など)
実験用遠心機は、主にライフサイエンス系の研究室や研究開発の現場で使用される機器です。
用途としては、液体中の細胞やウイルスの回収、タンパク質やDNAの精製などが挙げられます。
実験用遠心機には、用途目的に応じてさまざまなタイプがあります。
超遠心タイプ
・最高回転数40,000rpm以上の超高速回転を行う
・タンパク質、ウイルス、DNA、細胞内成分など非常に小さな粒子の分離に使用
・回転による摩擦熱を軽減するための冷却機能を搭載している
・光学的分析機能付きの機種あり(分析用超遠心システム)
高速冷却タイプ
・最高回転数20,000rpm程度の高速回転を行う
・細胞などの分離に使用
・回転による摩擦熱を軽減するための冷却機能を搭載している
低速タイプ
・最高回転数5,000rpm程度の低速回転を行う
・血液成分など、比較的大きな粒子の分離に使用
・スイングローターで、複数のチューブやプレートを遠心処理できる
・アングルローターも使用可能なものが多い
恒温タイプ
・恒温機能を搭載している
・造血幹細胞への遺伝子導入などに使用
小型タイプ
・卓上で遠心分離が可能なコンパクトタイプ
・サンプルのスピンダウンにも使用
・コードレスで簡単に持ち運べるタイプもある
池田理化では、実験用・工業用ともに様々な遠心機を取り扱っています。
機種選定の際には、オンラインカタログや実験室モデルプランなど便利なコンテンツもあわせてご活用ください。
オンラインカタログ掲載製品以外 にも遠心機を豊富に取り扱っております。ご希望の製品が掲載されていない、どの機種を選んだらよいかわからないといった場合も、お気軽に
お問い合わせください。
皆さまの実験・研究に最適な機種をご提案いたします。
最適な遠心機を選ぶ7つのポイント
遠心機の選定にはいくつかのポイントがあります。ここでは実験用遠心機についてまとめています。
目的や設置環境によって重視するべきポイントは変わりますが、これからご紹介する7つのポイントを順に見ていただければ、きっと機種選定にお役立ていただけると思います。
1.何を分離したいか
遠心機を選定する最も重要なポイントは、遠心分離の目的つまりサンプルから何の成分を分離したいかです。
基本的に最適な回転数や遠心加速度は、分離したい成分の密度や粒子サイズ、サンプル液の密度や粘性に左右されます。細胞のように壊れやすい成分を分離したい場合は、時間をかけて低速で遠心分離しなければなりません。またそれ以外にも、DNAやRNAのように温度変化の影響を受けやすい成分であれば、一定温度に保つ必要があります。
このように遠心分離の最適な条件は「分離したい成分が何か」によって異なるため、これを踏まえて遠心機の仕様を見ていきましょう。
2.冷却機能は必要か
遠心機は、高速で回転させるため、摩擦熱が発生する場合があります。このため、回転数の高い遠心機では、チャンバー内を真空にすることで空気との摩擦を低減して発熱を防いだり、サンプルを冷却する仕組みを搭載しています。
DNAや細胞、酵素などのサンプルは熱に弱く、温度変化により変性してしまいます。
そのためこれらのサンプルを遠心分離する場合、冷却機能付きの遠心機を選定することをお勧めします。
3.必要な遠心加速度 はどれくらいか
遠心機自体が生み出す純粋な遠心力は、物体の質量を考慮しない遠心加速度という値で表されます。遠心分離の際に使用する遠心加速度とは、地球の重力を1Gとしたときの相対遠心加速度(RCF)を指します。
分離したい成分や分離方法によって、必要な遠心加速度は決まっています。
遠心加速度は、前述の通り回転半径と回転数によって算出されます。つまり任意の遠心機で出力できる遠心加速度は、ローターの回転半径と、遠心機本体の回転数の組み合わせによって定められます。
遠心機本体の仕様として最高回転数は決まっており、また機種によって使用可能なローターの種類は限定されます。
そのため遠心機の選定には、目的の成分を分離するために必要な遠心加速度を把握しておく必要があるのです。
4.どれくらいの容量で回すのか
サンプルをどれくらいの容量で回すのか、つまりサンプルを入れる容器の容量や一度に処理する本数も遠心機の選択に影響します。
また容量だけでなく、容器の形状にも気を払わなければなりません。これにより最適な遠心機の機種やローターの種類が絞られます。
研究室で行われる実験の内容や方法から、実際に処理する容器の容量、形状、一度に処理する本数を確認して、遠心機を選定しましょう。
5.ローターはどのような種類か
遠心機のローターには、アングルローターとスイングローターの2つの種類があります。
アングルローター
アングルローターは、容器をローターの角度に合わせて斜めに設置するため、沈殿物も斜めに寄ってしまいます。
しかし容器を固定した状態で回転するため、高速回転にも耐えられます。
スイングローター
スイングローターは、角度が固定されていない台(バケット)に容器を設置します。
その仕様上、高速回転には不向きですが、回転時は回転軸に対して容器が水平になるため、沈殿物は水平にたまります。
大容量かつ低速回転で良い場合はスイングローターが向いているというように、遠心分離を行う条件に合わせ、アングルローターかスイングローターかを選択する必要があります。
6.機器の形態は卓上か床置きか
実験用遠心機には、卓上型と床置き型の2種類があります。どちらを選ぶかは設置スペースや作業動線とも考慮しましょう。
一般的に卓上型は床置き型に比べて最大容量が小さく、本体の設置面積も小さいものが多いです。また床置きするスペースがない場合や、作業動線の変更に合わせて機器の設置場所を柔軟に移動させたい場合は卓上型がよいでしょう。
一方で床置き型は、大容量で遠心分離する場合や、卓上に設置するスペースがない場合に向いています。キャスター付きで移動が容易なタイプもあります。
実験の内容だけでなく研究室のレイアウトや作業スペース、作業動線を考慮して、卓上型と床置き型、どちらを選択するかを決定しましょう。
7.電源はどのような形状か
必要な電源やプラグの形状は機種によって異なります。そのため研究室の電気環境や、必要に応じて工事ができるのかといった点は、必ず事前の確認が必要です。
実験用遠心機は単相100V・20~30Aの製品が主流ですが、三相や200V仕様の機種もあります。現場での使用に困難が生じる可能性がありますので、研究室の電気容量、電圧、使用予定のコンセントへの他の機器の配線状況を確認することをお勧めします。
また接地(アース)の有無やコンセントの形状も必ず確認してください。
使用する機器の電源仕様と研究室の電気環境によっては、研究室内の既存の設置機器のレイアウト変更や専用の電気工事が必要になる場合もあります。
ここまで、遠心機を選ぶポイントについて解説しました。
遠心機は機種選定時に確認する項目が多く、ここで述べたポイント以外にも、本体の最高回転数と、ローターの最高回転数、そして容器の耐久性なども考慮する必要があります。
容器の耐久性は、長時間の遠心分離や温度、サンプルの濃度も関係してくるため、カタログだけでは判断がつかないケースも多くあるでしょう。
池田理化は、1931年の創業以来、研究者の皆さまをサポートしてきたノウハウや経験に基づき、常時3,000 社を超える取り扱いメーカーの製品から最適な機器をご提案します。選び方に迷ったり、特別なアプリケーションが必要な場合など、遠心機で分からないことがあれば、当社までぜひご相談ください。