年末も差し迫ったこの時期、皆様いかがお過ごしでしょうか。1年頑張った自分へのご褒美や、家族と特別な1日を過ごすためにごちそうは欠かせないですよね。
もう20年も前になるでしょうか。アメリカで食べたブラックアンガスのステーキは、私にとって忘れられない味でした。
「アメリカの伝統的な食べ物が食べたい」という私の要望に対し、「アメリカの伝統的な食べ物…?うーんそれは冷凍食品だね」と言いながら同僚が連れて行ってくれたステーキハウスはまさに最高の思い出になりました。
日本でも同じ系列のステーキハウスでブラックアンガスのステーキを楽しむことができますが、やはり現地で食べたほうが一段と美味しく感じます。
アメリカの例は極端ですが、日本国内においても、「やっぱり港町で食べる魚は違うね!」という経験を持たれた方も少なくないのではないでしょうか。
近年、冷蔵冷凍技術の進歩により、遠隔地でも新鮮で美味しい食事を楽しむことができるようになっています。
新鮮な魚や肉の他、フリーズドライの保存食品なども非常に美味しく、驚かされるばかりです。技術開発に携わっておられる方の情熱を感じますよね!
この技術は細胞製剤や組織の輸送、保管にも活用されているのだそうです。考えてみれば当然ですが、魚や肉、野菜も生物であり、細胞で構成されています。
状態と品質を保ったまま輸送し、保管する、という観点ではどちらも同じです。
先日、お祝いに件のステーキハウスへ食事に行ったところ、その会話で「細胞の品質は輸送でどこまで変わるのか」という話題になりました。
もともとは「細胞の輸送にも食肉の輸送技術が使用されている」という話だったのですが、すぐに「輸送はどこまで細胞に影響するのか?」というテーマに移り、
「ステーキの味」を例にとっても、輸送や保管そのものが細胞に与える影響は少なからずあるだろう、と考えられました。
例えば、ヒト間葉系幹細胞(MSC)の特性は、製造方法や使用する材料によって異なることが示されています1)。
同じドナーから採取された骨髄を使用しても、異なる施設で製造されたMSCは異なる特性を示すことがあり、とくにこの報告ではASIAとUSの施設において解凍後のViabilityに顕著な差がみられます。
このことは、細胞の保管や輸送の方法が細胞の品質に大きな影響を与えることを示唆しています。
アメリカで食べたブラックアンガスのステーキのように、細胞製剤も適切な保管と輸送が行われることで、その効果を最大限に発揮することができます。
最近は日本や諸外国でも細胞の常温保管技術に注目が集まっており、日本でも
FCeM Advance のような製品が開発されています。今後も技術の進歩により、さらに高品質な細胞製剤が提供されることを期待しています。
1: Human Mesenchymal Stromal Cell (MSC) Characteristics Vary Among Laboratories When Manufactured From the Same Source Material: A Report by the Cellular Therapy Team of the Biomedical Excellence for Safer Transfusion (BEST) Collaborative