2024.7.29

蛍光顕微鏡は、特定の波長の光をサンプルに照射して、発生した蛍光を観察・記録するための実験機器です。蛍光を用いることで、可視光による観察法では見ることのできないものも観察することができます。
この記事では、これから蛍光顕微鏡を使い始めたい方に向けて、顕微鏡の基本や使い方、失敗しない蛍光顕微鏡の選び方などをご紹介いたします。新規購入や買い替えの際のご参考になりましたら幸いです。
池田理化には顕微鏡専門の担当者も在籍しております。ご要望にあわせた最適な機器をご提案いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
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目次
蛍光顕微鏡とは

蛍光顕微鏡は、サンプルに特定の波長の光(励起光)を照射することで、サンプルから発生する蛍光を観察・記録することのできる機器です。観察対象のみが光り、バックグラウンドは暗黒に近いため、検出感度が非常に高いことも特長です。
生物顕微鏡では微生物や細胞の観察、工業用顕微鏡(金属顕微鏡)では半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)の検査などに用いられています。
生物顕微鏡による蛍光観察では、サンプル中の特定の物質や構造を蛍光色素で特異的に標識することで、可視光による観察法では見えない物質の挙動や詳細な構造を可視化することができます。
蛍光とは
物質が光エネルギーを受け取って、そのエネルギーが再び光として放出される現象を「フォトルミネセンス」と呼びます。蛍光はこの「フォトルミネセンス」の一種です。
物質のなかには、励起光を照射すると、物質中の分子あるいは原子がそのエネルギーを吸収して励起状態になるものがあります。この不安定な状態から基底状態に戻ろうとする際、エネルギーが蛍光として放出されます。(左図参照)
身近な例では、ブラックライトを照射すると光る塗料などがあります。
蛍光顕微鏡が必要な研究テーマ
生物顕微鏡による蛍光観察は、主に生物の組織や細胞、微生物などの観察に用いられます。
たとえば、左の写真のように、細胞の核とミトコンドリア、アクチンフィラメントを異なる蛍光色素で標識することで、細胞小器官と細胞骨格の状態を同時に観察することができます。
また、目的のタンパク質を蛍光標識することで、細胞内での局在や移動をリアルタイムに観察することも可能です。
生きたサンプルの細胞や組織、タンパク質などの挙動を研究することは、生体や疾患の機序を理解するうえで非常に重要です。このため蛍光顕微鏡は、再生医療やがん、神経研究などをはじめ、医療や生物学におけるあらゆる研究分野に用いられています。
また、工業用顕微鏡による蛍光観察は、プリント基板や半導体、FPD(フラットパネルディスプレイ)の検査などに用いられています。生物顕微鏡と同様に、可視光による観察と蛍光観察を併用することで、どちらか一方では見つけるのが困難な異常を見つけることができます。
このように蛍光顕微鏡は幅広い用途で使用されています。
顕微鏡の種類|光学顕微鏡との違いなどを解説
蛍光顕微鏡は光学顕微鏡のひとつです。顕微鏡には、光学顕微鏡のほかに電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡などの種類があり、それぞれ撮像方法が異なります。
さらに、光学顕微鏡は、構造や照明の当て方、観察方法によって分類されます。
ここではそれぞれの顕微鏡の特徴や違いをご説明します。
撮像方法の違い(光学・電子・走査型プローブ)
顕微鏡には大きく以下の3つの撮像方法があります。
- 光学顕微鏡
レンズによる光の屈折などを利用して可視光による像を拡大する。肉眼では見られない小さなサンプルの観察が可能。蛍光顕微鏡は光学顕微鏡の一種。
- 電子顕微鏡
電子線を用いて対象を観察する。基本的な原理は光学顕微鏡と同じだが、波長の短い電子線を用いることで、光学顕微鏡よりも高倍率での観察が可能。
- 走査型プローブ顕微鏡
探針・プローブと呼ばれる微小な針でサンプルの表面をなぞることで対象を観察する。
以降の章では、光学顕微鏡における構造や照明の当て方、観察方法のちがいについてご説明します。
構造の違い(正立・倒立・実体)
光学顕微鏡は、構造の違いにより大きく以下の3つに分類されます。蛍光観察は、いずれの顕微鏡でも用いられる観察方法です。
正立顕微鏡
サンプルを上から観察する構造の顕微鏡。観察できるサンプルの厚みは、対物レンズの先端からステージまでの間に限られる。
組織切片標本などのスライドグラス上のサンプル観察で主に用いられる。
倒立顕微鏡
サンプルを下から観察する構造の顕微鏡。
シャーレなどの培養容器に入った細胞を、そのまま観察する場合などに用いられる。
実体顕微鏡
双眼鏡のように左右別々の光路があるため、視差によって立体的な観察が可能な構造の顕微鏡。
小動物の観察やマニピュレーション、金属部品などの観察に用いられる。
照明の違い(透過・落射)
光学顕微鏡は、照明の当て方により、透過型と落射型の2つに分類されます。
- 透過型顕微鏡
観察する方向と逆側から照明を当て、サンプルを透過した光を観察する方式。細胞などの反射が少なく透明なサンプルを観察する際に用いられる。
- 落射型顕微鏡
観察する方向と同じ側から照明を当て、サンプルから反射した光を観察する方式。小動物、鉱物や工業加工物など、不透明なサンプルを観察する際に用いられる。
観察方法の違い(蛍光・明視野・位相差など)
光学顕微鏡における観察方法はさまざまで、サンプルの性質に合わせて、最適な観察方法を選ばなければなりません。
蛍光観察は、生物顕微鏡の場合は明視野・位相差・微分干渉観察、工業用顕微鏡の場合は暗視野観察と併用して用いられることも多いですが、蛍光観察ができる顕微鏡は総じて「蛍光顕微鏡」と呼ばれています。
同様に、その顕微鏡で使用可能な手法を冠して、それぞれが「明視野顕微鏡」「位相差顕微鏡」などの名称で呼ばれることがあります。
明視野観察(Bright Field microscopy ; BF)
最も一般的な観察方法。サンプルに直接照明を当てて反射・透過した光を観察する。
ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色された組織切片などのスライドグラス標本の観察に用いられる。
暗視野観察(Dark Field microscopy ; DF)
サンプルからの散乱光や回折光を観察する手法。照射した光が対物レンズに直接入らないようにするので、真っ暗な視野の中で観察対象のみが光って見える。線虫やべん毛の観察などで主に用いられる。
位相差観察(PHase Contrast microscopy ; PH, PC)
光の回折と干渉を利用する。直進する光と、回折した光の波長のずれ(位相差)を利用して、透明なサンプルを明暗のコントラストが付いた状態で観察することができるため、生体サンプルの観察も可能である。
微分干渉観察(Differential Interference Contrast microscopy ; DIC)
サンプルの屈折率や形状による光路差を利用して、透明なサンプルを立体的に観察することができる。位相差観察と同様に生体サンプルの観察が可能。位相差観察よりも解像力が高く、分厚いサンプルの観察も可能。一方で、プラスチック容器での観察には基本的に向いていない。
蛍光観察(Fluorescence microscopy ; FL)
励起光を照射し、サンプルから発生する蛍光を観察する。
蛍光によって、可視光による観察方法では見ることのできない物質や構造を可視化することができる。
共焦点レーザー顕微鏡との違い
前述した光学顕微鏡は、サンプル全体に照明を当て、観察したい「面」に焦点を合わせることで観察を行います。この際、焦点外の反射光や散乱光も拾ってしまうため、分解能(※1)には限界があります。
また、対物レンズの被写界深度(※2)には限界があるため、厚みのあるサンプル全体にピントを合わせることはできません。

※ 正立顕微鏡の場合
一方、共焦点レーザー顕微鏡(コンフォーカル顕微鏡)では、左図のようにピンホールによって焦点外の光がカットされ、焦点の合った「点」のみを選択的に検出します。また、直進性の高いレーザー光を照射することにより光の散乱を防ぎ、コントラストが高く、ボケのないクリアな像を得ることができます。
したがって、Z軸方向にサンプルの観察面を少しずつ振っていくことで、3次元画像を構築することも可能です。
「面」ではなく「点」で観察像を構築するため、スキャン時間はかかりますが、通常の蛍光顕微鏡では観察しきれない細部まで詳細に観察することができます。
※1 分解能… 隣接した2つの点を、分離して2つの点として識別できる最小距離のこと
※2 被写界深度… ある一点に焦点を合わせたときに、同時にピントが合う深さ距離を示す指標のこと
蛍光顕微鏡の原理と仕組み

※ 正立顕微鏡の場合
ここでは、蛍光顕微鏡の光路について、簡単にご説明します。
まず、光源から発せられた光は励起フィルターを通して特定の波長、すなわち、励起光のみに選別されます。(図①)
次に励起光はダイクロイックミラー(※3)に反射して、サンプルに照射されます。(図②)
これによってサンプル内の蛍光色素が発光し、発せられた蛍光はダイクロイックミラーを透過します。(図③)
最後に、観察したい特定の波長範囲の蛍光のみが吸収フィルターを透過して、対物レンズやカメラに届きます。(図④)
なお、励起フィルターとダイクロイックミラー、吸収フィルターがひとつにまとまった部品は、メーカーごとに「蛍光キューブ」「蛍光ミラーキューブ」「蛍光フィルターキューブ」「蛍光ミラーユニット」などと呼ばれており、蛍光色素ごとに最適な組み合わせで提供されています。(※ 本記事では「蛍光キューブ」に表現を統一)
※3 ダイクロイックミラー… 特定の波長範囲の光のみを透過して、それ以外の波長の光を遮断する性質を持つ
蛍光顕微鏡の使い方

蛍光顕微鏡で適切な観察を行うためには、決められた手順を守り正しく使用する必要があります。ここでは、蛍光顕微鏡の基本的な使い方、よくあるトラブルと対処法についてご説明します。
基本的な使い方
-
明視野観察用、および、蛍光観察用の光源の電源をつける
- 明視野観察で、低倍率から高倍率の対物レンズの順にピント調整を行う。このとき、蛍光観察用の光がサンプルに当たらないよう、光路上にあるシャッターを閉めておく
- 観察したい蛍光色素に合わせて、最適な蛍光キューブ(励起フィルター・ダイクロイックミラー・吸収フィルター)を選択する
- 蛍光観察用の光源が安定したら、明視野観察用の照明を消して、周囲環境を暗くする
- 蛍光観察用の光源のシャッターを上げて、サンプルに励起光を照射する
- 接眼レンズ、もしくは、カメラモニターで蛍光像を確認する
- 適切な観察ができていたら、必要に応じて、カメラで撮影する
使用後は各種装置の電源を落とし、清掃を行った後、カバーを付けて収納しましょう。
なお、解析ソフトウェアを用いる場合や、顕微鏡の自動制御システムを用いる場合は、それぞれの使用手順に合わせて、順序を守って各種装置・ソフトウェアの起動・シャットダウンを行いましょう。順番を誤ると故障に繋がる可能性もあるため、十分に注意が必要です。
よくあるトラブルとその対処法
蛍光顕微鏡には顕微鏡全般に共通するトラブルと蛍光顕微鏡に特有のトラブルがあります。
それぞれの主な事例と対処法をご紹介しますので、是非参考にしてみてください。
顕微鏡全般に共通するトラブルと対処法
顕微鏡全般における主な3つのトラブルについて、対処法をご紹介します。
ピント調整がうまくいかない

画像右側はピンボケで像が不鮮明(※イメージ)
顕微鏡はレンズとサンプルの距離を変えることでピント調整を行います。ところが、高倍率のレンズほど、サンプルにピントの合う深さ距離(被写界深度)が浅くなる傾向があるため、高倍率の対物レンズにおけるピント調整は難しくなります。
したがって、顕微鏡のピント調整の際は、まず低倍率のレンズでピントを合わせ、順に高倍率のものに切り替えていくとピント調整がしやすくなります。
また、ステージの固定が緩いために、自重で少しずつステージが下がってしまい、ピントがずれていくこともあります。そのような場合は、ステージの調整ハンドルを少しきつくしてみましょう。
照明が適切に調整できていないことによるトラブル

視野周辺が暗く、明るさが不均一(※イメージ)
明るさにムラがある場合はコンデンサで光軸調整を行い、サンプルに対して、まっすぐ照明が当たるようにします。
視野周辺だけが不自然に暗い場合は、視野絞りを絞りすぎている可能性が高いです。
像がぼやけるなど、なんとなく見えにくいときはコントラストが適切でない場合が多いため、開口絞りで照明量を調整しましょう。
また、対物レンズの倍率を上げると、一般的に視野は暗くなります。上述の調整ができていても改善しない場合は、光源の強度を調整してみましょう。
ゴミのようなものが見える

※ 画像はイメージです
光路内にゴミや汚れが付着してしまうと、観察の邪魔になってしまいます。
特に対物レンズや接眼レンズは取り外し可能で、肌やサンプルに触れる可能性もある場所です。皮脂などでレンズを汚したり、表面や内部に埃が入ったりしないよう注意しましょう。
また、湿度の高い場所で長期間保管することで、本体内でカビが生えてしまうことがあります。このような場合は通常のクリーニングではどうすることもできないので、顕微鏡の保管場所には注意してください。
蛍光顕微鏡特有のトラブルと対処法
光学顕微鏡特有の主な3つのトラブルについて、対処法をご紹介します。
光源由来のノイズやムラ

画像右側はノイズが多く像がはっきりしない(※イメージ)
蛍光顕微鏡の光源として広く使われている高圧水銀ランプですが、電源を入れた直後は安定せず、光強度の揺らぎやちらつきにより、ノイズやムラが発生します。
これらの現象はランプの劣化によって目立つようになるため、使用時間や一定期間ごとに定期的なランプ交換が必要です。頻繁な電源のON・OFFやランプに素手で触れる行為は、ランプの劣化を早めるため、注意しましょう。
また、機種によっては「ランプの心出し」という作業が必要な場合もあります。これがうまくできていないことが原因で励起光にムラが出る場合もあるため、ランプを交換する前に、お使いの機種ではランプの心出しが必要かどうか確認しておきましょう。心出しの手順は、各社取り扱い説明書をご確認ください。
なお近年は、長寿命で扱いやすい高輝度LED照明なども登場しています。従来使われていた水銀ランプと比べて長寿命で安定しやすいため、普及が進んでいます。
励起光による褪色が著しい

長時間励起光が当たり、蛍光が弱くなっている(※イメージ)
蛍光は無限ではありません。蛍光観察では、エネルギーの強い励起光をサンプルに照射するため、蛍光が褪色しやすいという問題があります。
シャッターを活用するなど、励起光の照射時間はできる限り短くし、それでも褪色が問題となる場合は褪色防止剤の使用を検討しましょう。
観察対象が生きたサンプルの場合は、励起光の照射によってサンプルが弱ってしまう場合もあるので、照射時間や出力強度には注意しましょう。
光源や光路に問題がないのに全体的に像が暗い

※ 画像はイメージです
NDフィルターなどの減光フィルターが入ったままになっていると、必要以上に像が暗くなってしまうことがあります。観察や褪色防止のためにフィルターを出し入れしていると、意外とうっかりしてしまいがちなミスです。
また、コントラスト調整のために開口絞りを絞りすぎると、視野が暗くなってしまいます。基本的に開口絞りは全開にしておき、コントラストが悪い場合には、明るさとのバランスを見ながら適度に絞りを調整しましょう。
光源や光路問題ないのに、なぜか全体的に暗いな…と思ったら、一度確認してみてください。
ここでご紹介したのは一般的なトラブルであり、特定の機器に起因するトラブルや特殊な事例は含まれません。解決が難しい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
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蛍光顕微鏡を選ぶ6つのポイント

蛍光顕微鏡は蛍光観察法を用いた顕微鏡の総称です。一言で蛍光顕微鏡と言ってもさまざまな仕様があり、研究の目的や観察したいサンプルの性質により、最適な機種は異なります。
ここでは、ポイント別に蛍光顕微鏡の選び方をご説明します。
1.本体の構造
「
構造の違い(正立・倒立・実体)」でご説明した通り、蛍光顕微鏡にも、サンプルを上から観察する正立顕微鏡と、下から観察する倒立顕微鏡、視差により立体的な観察ができる実体顕微鏡があります。
正立型の蛍光顕微鏡は、対物レンズの先端からステージまでのスペースに納まる厚みのサンプル、たとえば、組織切片などのスライドグラス上のサンプル観察に向いています。
一方、倒立型の蛍光顕微鏡は、ステージの下に対物レンズがある構造のため、シャーレなどに入った培養細胞などをそのまま観察するのに向いています。
また、実体型の蛍光顕微鏡はある程度大きさのある小さなもの、たとえば、ゼブラフィッシュやマウス、ショウジョウバエなどの小さな生き物、金属部品の観察などに向いています。
2.蛍光キューブの選定
サンプルに照射できる励起光や観察できる蛍光の波長範囲は、蛍光キューブ内部のフィルターとミラーの組み合わせによって決まります。
市販されている蛍光色素に合わせて、それぞれ最適な組み合わせでメーカーから提供されているので、まずはご自身の目的に最適な蛍光色素から選ぶとよいでしょう。
なお、蛍光キューブには内部のフィルターやミラーが透過・反射する波長範囲が広いものと狭いものがあります。
波長範囲が広いものは取り込む励起光や蛍光も多くなるため、明るい蛍光像を観るのに適していますが、一方で、ノイズが多くなってしまう可能性もあります。そのような場合は、それぞれの透過する波長範囲の狭いものを選ぶことで、ノイズが軽減するでしょう。
また、複数の蛍光色素で観察を行いたい場合は、できるだけ蛍光色素同士の波長が離れたものを選びましょう。
どうしても波長の近い蛍光色素同士で観察しなければならない場合は、隣り合う蛍光の漏れ込みや検出する波長範囲に重複のないよう、前述のように透過する波長範囲の狭いものを検討してみるとよいでしょう。(下図参照)
このように、観察内容が複雑になるほど蛍光キューブの選定は難しくなります。また、条件によっては既存のユニットで対応できない場合もあります。
選定にお悩みの際は、メーカーや代理店に一度相談してみてください。
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3.対物レンズの性能

顕微鏡の総合倍率は「接眼レンズの倍率×対物レンズの倍率」で決まります。接眼レンズはあくまで、対物レンズを介して得られた像を「拡大」する役割のため、「接:10倍×対:20倍」と「接:20倍×対:10倍」では、同じ200倍でも画質が異なるため、注意しましょう。
倍率に限らず、対物レンズの性能は得られる像の質にダイレクトに関わります。
しかし、性能が高い対物レンズはその分価格も高くなるため、必要な性能と予算を元に検討する必要があります。
補正の有無
レンズを通った光はそのままレンズを通過するわけではありません。色ごとに焦点位置がずれる色収差や(左図参照)、像が湾曲してしまう面湾曲などがあり、正確な観察のためには、これらの補正が必要です。
色収差の補正レベルにはグレードがあり、「アクロマート<セミアポクロマート<アポクロマート」の順に補正グレードが高くなります。
また、面湾曲の補正機能があるレンズには「プラン」という名称が付いています。
このほか、レンズ自体の蛍光(自家蛍光)によってバックグランドが不自然に明るくなることがあるため、自家蛍光の少ない蛍光観察用の対物レンズを選定することも重要です。
開口数の大きさ
開口数とは、明るさや分解能、焦点深度の深さを示すための指標です。(左図参照)
同じ倍率であれば、開口数の大きなレンズほど分解能が高く、明るくクリアな像を得ることができます。
蛍光観察において「明るさ」は重要なポイントですが、低倍率と比べて、高倍率の対物レンズは取り込める光量が少なく、視野が暗くなります。
したがって、微弱な蛍光や微細な構造を観察する際には、高倍率の対物レンズほど、開口数の大きさが重要な意味を持ちます。
また、理論上、開口数は屈折率に依存し、屈折率が大きいほど分解能は高くなります。そこで、「空気」よりも屈折率の大きな「液体」を対物レンズとサンプルの間に挟むことで開口数を大きくした「液浸対物レンズ」と呼ばれる製品があります。
液浸対物レンズには、水浸対物レンズと油浸レンズがあり、主に以下のような特徴があります。
- 水浸レンズ… 薄いサンプルにも厚いサンプルにもバランス良く適している
- 油浸レンズ… 厚いサンプルには不向きだが、薄いサンプルに大変よく適している
4.光源の種類
蛍光観察に用いられる光源には、水銀ランプ・キセノンランプ・LEDランプなどがあり、それぞれ以下のような特徴があります。
種類 |
特徴 |
水銀ランプ
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短波長から長波長まで幅広い波長を含み、長年、蛍光観察用の光源として用いられてきた。特定の波長において強い光を発し、これらの波長は多くの蛍光色素と対応している。寿命は200~300時間程度。頻繁な電源のON/OFFで消耗。産業廃棄物。 |
キセノンランプ |
水銀ランプに比べて比較的幅広い波長を安定して発する光源。出力は水銀ランプに劣るものの、広い波長域で使用可能な点がメリット。頻繁な電源のON/OFFで消耗。産業廃棄物。 |
LEDランプ |
出力はやや劣るが「長寿命」「省エネ」「環境配慮」「手軽」という大きな強みで、近年普及が進んでいる。
- 長寿命 :ランニングコストを抑えられる
- 省エネ :消費電力や発熱が小さい
- 環境配慮:一般の廃棄物として廃棄可能
- 手軽 :電源のON/OFFを瞬時に行うことができ、「光源由来のノイズやムラ」で触れたランプの心出しが不要
|
5.カメラの種類(撮像素子)
蛍光観察向けのカメラは、撮像素子(イメージセンサ)の違いによっていくつかの種類に分けられます。
種類 |
特徴 |
CCDカメラ
|
CCDセンサを搭載した高画質カメラ。蛍光顕微鏡での撮影に広く使われてきた。 |
EM-CCDカメラ |
CCDカメラの進化版で、超高感度。低光量のシグナルを増幅し、長時間露光(※4)にも向いており、微弱な光も検出可能。
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CMOSカメラ |
CMOSセンサはCCDと比べて処理速度が速く、高速撮影に向いている。一方で、高速撮影時に歪みが発生しやすく、S/N比(※5)が低いのが難点だった。近年は高性能化により解消しつつあり、CCDやsCMOSより安価なため、主流化している。
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sCMOSカメラ |
CMOSカメラの進化版で、より高感度で高画質。高速撮影時のノイズも低減しており、S/N比が高くなっている。長時間露光には不向きだが、高性能で汎用性が高い。 |
※4 長時間露光… 露光時間を一般的な撮影時よりも長くすること。シャッタースピードが遅いため、より多くの光を取り込むことができ、明るい像を得ることができる
※5 S/N比… 信号対ノイズ比のこと。S/N比が高いほど、ノイズが少なく、画像の品質は高い
また、カラーカメラとモノクロカメラでは、カラーフィルターがない分、モノクロの方が感度は高く、微弱な蛍光の撮影に向いています。色は解析ソフトウェアで、疑似的に付けることも可能です。
センサの冷却機能が付いたカメラは、内部で発生するノイズを抑制し、高感度撮影を可能にするため、こちらも微弱な蛍光を撮影する必要がある場合に適しています。
いずれも高価ですが、それに見合った性能があるため、使用目的と予算に合わせて検討しましょう。
なお、カメラは必ずしも高解像で高感度なほどよいとは限りません。ご使用になる蛍光顕微鏡の仕様に合わせて最適な組み合わせがあります。
ISO(感度)やダイナミックレンジ(明暗差)、S/N比、色再現性、フレームレートなど、さまざまな検討要素があるため、「どのような撮影を行いたいのか?」ということを明確にして、メーカーや代理店にご相談のうえ、実際の条件下でお試しいただくことをおすすめいたします。
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6.オプションの有無(電動化や環境制御)
下記のように手動では困難な作業を行いたい場合は、顕微鏡の制御を自動化するオプションを付けることが可能です。
- 繰り返し決まった箇所を検査したい場合
- 大量のサンプルを扱う場合
- 複数の観察画像を組み合わせて広範囲を観察する場合
- 3Dデータを得る場合
また、生きたサンプルを一定間隔ごとに撮影するタイムラプスイメージングや、生細胞をリアルタイムに観察するライブセルイメージングなどを行いたい場合は、サンプルに合わせて、CO2濃度や温度などの
環境制御を行うためのオプション が必要な場合があります。
機種によってはこれらのオプションに対応できないため、後々これらの機能が必要となる場合は、あらかじめ拡張性のある機種を選ぶようにしましょう。