ドラフトチャンバーとは?種類・原理・選び方・おすすめメーカーをご紹介

2023.8.31



ドラフトチャンバーは、研究室における有害物質への暴露から研究者を守るための局所排気装置です。ヒュームフードとも呼ばれます。
この記事では、その原理や仕組み、タイプの違いや選ぶポイントについて詳しく解説しています。 目的や使用環境に応じた、最適なドラフトチャンバーの選定にお役立てください。

目次


ドラフトチャンバーとは



科学実験では、有機溶剤や特定化学物質など、人体に有害な物質が使用されることがあります。これらの有害物質の多量揮発や飛散から研究者を守るための専用装置、それが「ドラフトチャンバー」です。ヒュームフードとも呼ばれます。

局所排気装置の種類

局所排気装置のうち、ドラフトチャンバーは作業スペースを囲う「囲い式」に該当します。

その名の通り、作業環境を囲っているため、スペースは制限されますが、小さな排気風量で作業者側に有害物質が流出することを防ぎ、高い安全性を保つことができるのが特徴です。

ドラフトチャンバーの前面には可動式のサッシがあり、開口面からチャンバー内へ吸気することで、作業者側には空気が流出しない仕組みになっています。
一方で、アイソトープや毒ガス等を扱う場合は、より密閉された空間での非接触作業が必要となるため、同じく「囲い式」のグローブボックスが使用されます。

関連法について

ドラフトチャンバーは、労働者の健康と安全を守る観点から、次の法律や規則で設置と管理が定められています。

労働安全衛生法 第二十二条

事業者にガスや粉塵、排気による健康障害を防止する措置を義務付けている法律です。
出典:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

特定化学物質障害予防規則 第二章

第一類および第二類物質を取り扱う場所への局所排気装置の設置を義務付けています。
出典:特定化学物質障害予防規則 | e-Gov法令検索

有機溶剤中毒予防規則 第二章「設備」

第一種および第二種有機溶剤を取り扱う場所へ局所排気装置の設置を義務付けています。 
出典:有機溶剤中毒予防規則 | e-Gov法令検索

なお、局所排気装置の設置、移設等は、労働基準監督署への届出が必要です。

法定定期検査について

ドラフトチャンバーの使用には、労働安全衛生法第四十五条により、事業者に対して年1回の定期自主検査の実施と検査結果の保存が義務付けられています。
研究環境の保全や研究者の健康を維持するため、点検漏れのないよう導入時にしっかりと検査フローを組みましょう。
また、この検査で不良個所が発見された場合は、速やかに改善と修復を行わなければなりません。加えて、事業者は法定資料の作成時にその旨を記載し、これを保管する義務があります。

クリーンベンチや安全キャビネットとの違い


ドラフトチャンバーと似た実験設備に、クリーンベンチと安全キャビネットがあります。
いずれも四方を囲まれた箱型装置です。気流を制御する点は似ていますが、目的や仕組みは異なります。
ここからは、ドラフトチャンバーとクリーンベンチ、安全キャビネットの違いを解説します。

クリーンベンチとは

ドラフトチャンバーが「作業者の安全確保」を目的とした装置であるの対し、クリーンベンチは「庫内を清浄に保つこと」を目的とした装置です。

庫内では陽圧が維持され、庫内から庫外に向かう気流によって、空気中の微生物やほこりの侵入を防いでいます。また、庫内へ取り込まれる空気はHEPAフィルター(※)でろ過されるため、庫内には常に一定の清浄度の空気が供給されます。
※定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有しており、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルターのこと

なお、有害物質を封じ込める機能はないため、感染性のある病原体などを取り扱うことはできません。
細胞培養などの際に、コンタミネーションを避け、無菌操作を行うために用いられます。 

安全キャビネットとは

安全キャビネットには、ドラフトチャンバーと同様「作業者の安全確保をする」ほかに、「病原体や遺伝子改変生物等の流出を防止する」という目的があります。

クラスⅠ~クラスⅢの分類があり、クラスⅠでは庫内の陰圧と、庫外排気口のHEPAフィルターにより、上述の2点が確保されますが「庫内の清浄性」は確保されません。

このため、無菌操作を行う場合は庫内排気口にHEPAフィルターの設置されたクラスⅡが必要となります。
また、サンプルと作業者間により厳重な隔絶環境が必要な場合は、クラスⅢが必要となります。

 

ドラフトチャンバー、クリーンベンチ、安全キャビネットの比較

ドラフトチャンバー、クリーンベンチ、安全キャビネットの特徴を以下にまとめました。以下3点からどの対策が必要かによって、最適な装置を選ぶ必要があります。

  1. 有害物質からの作業者の保護
  2. 庫内での無菌操作
  3. 庫外排気時の対応
有害物質からの保護 無菌操作 排気
ドラフトチャンバー × 大気放出による無限希釈、
活性炭フィルターによる無害化、
スクラバーによる無害化 等
クリーンベンチ ×
※HEPAフィルターによる
室内
安全キャビネット ×
※クラスⅡ以上
※HEPAフィルターによる
HEPAフィルターによる無害化

ここまでのまとめは以下の通りです。

  • ドラフトチャンバーは、研究者を有害物質から守るための設備です。
  • 事業者には、ドラフトチャンバーの設置の申告や自主検査が法律で義務付けられています。
  • クリーンベンチや安全キャビネットとは使用目的や対応できる範囲が異なるため、用途に応じて選ぶ必要があります。
池田理化では実施される実験内容や、研究室の設置場所などに応じて、最適な機器をご提案させていただきます。どの装置がご自身の使用環境に最適かお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

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ドラフトチャンバーの原理と仕組み



ここまで、ドラフトチャンバーの設置目的や法的義務について解説しました。この章では、ドラフトチャンバーの原理や仕組みについて説明いたします。

陰圧による有害物質漏出の抑制

ドラフトチャンバーの設置目的は「有害物質からの作業者の保護」です。

装置前面には可動式のサッシがあり、内蔵された排気ファンが空気を吸引し外部に排出することで、サッシ開口面から外部に向かう気流が発生します。これにより、作業スペースは陰圧に保たれ、作業者側には空気が流出せず、安全が保たれるという仕組みになっています。

なお、サッシ前面の風速は、有機溶剤中毒予防規則(※1)と特定化学物質障害予防規則(※2)によって定められています。
※1)有機則…0.4m/s  ※2)特化則(ガス状)…0.5m/s、(粒子状)…1.0m/s

排気に含まれる有害物質の除去

ドラフトチャンバーからの排気には有害物質が含まれます。このため、安全な状態で外部へ放出するために、以下のような方法が取られます。

  1. 大気放出による無限希釈
  2. 活性炭フィルターによる無害化
  3. スクラバーによる無害化
これらの内、もっとも有害物質の除去効果が期待できる方法が、③の「スクラバー」です。①②で対応できない高濃度の有害物質を使用する場合には、スクラバーを使用します。

スクラバーには湿式・乾式・燃焼式などの種類がありますが、本来は「湿式排ガス処理装置」のことを指します。
「湿式」は、ドラフトチャンバーからの排気に含まれる有害物質を吸着、水洗浄、薬液中和処理して大気中に放出する装置で、主に酸性またはアルカリ性ガスの除去に用いられます。一方、「乾式」は活性炭ユニット、フィルター形状の活性炭層で構成され、主に溶媒ガスの除去に用いられます。なお、スクラバーにも、ドラフトチャンバーと同様に、法律で自主検査が義務付けられています。

排気対策は、取り扱う物質の種類や濃度などによって、労働基準監督署の定める最適な方法を選ばなければなりません。

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性能を損なわないための注意点

先に述べたように、ドラフトチャンバーは庫内の気流を制御することで、作業者の安全を守る装置です。したがって、庫内の気流を維持するための排気風量や開口面の風速が保たれていることが重要ですが、外部の気流の乱れがそれらに干渉してしまうことがあります。

気流を乱す要素としては、空調機の吹き出しや吸引、扉や窓の開閉による吹き込み、他の設置機械からの排気、人の通行による気流などが挙げられます。これらが開口面に干渉すると性能が損なわれる恐れがあるため、ドラフトチャンバーはできるだけこのような要素のない場所に設置する必要があります。

設置済の装置や、そのような場所のない場合も、できるだけこれらの要素を排除するよう努めましょう。たとえば以下のような対策が挙げられます。
  • 装置使用時は近くの空調機を止めたり、窓を閉めたりする(完全に給気源を絶たないよう注意)
  • 背後に人が通らないようメンバーに周知する
  • 反応中などサッシを閉めて差し支えない場合は閉めたまま使用する
  • 不必要なサッシの開け閉めは行わない

ドラフトチャンバーの種類

多様な使用目的や環境に対応するため、ドラフトチャンバーにはさまざまな種類があります。この章では「排気風量」や「機器の形状」といった視点から、それぞれの特徴について詳しくご紹介いたします。

排気風量の制御方式による分類

ドラフトチャンバーは、庫内の気流を制御することで作業者の安全を守る装置です。したがって、使用目的に合った制御方法の装置を選ぶ必要があります。

ここでは排気風量の制御を「一定風量タイプ」「可変風量タイプ」「低風量タイプ」の3種類(※)に分類してご説明します。
※ 別物として記載しておりますが、一定風量モードと可変風量モードを搭載し、切り替えができる機種もあります

一定風量タイプ(CAV方式)

一定風量タイプは、サッシの開閉状態に関わらず、常に一定量を排気し続ける仕組みです。
このため、サッシを閉めるほど開口面の風速は上がり、開いているほど風速は下がります。

後述する「可変風量タイプ」がサッシの開閉状態によって風量を調節するのに対し、常に一定量を排気するため、庫内の空気が安定して換気されます。このような特徴から、加熱実験などの安定した換気を必要とする実験に向いています。
ただし、排気量が多いため、外部からの砂塵を取り込む恐れがあることや、研究室の空調ロスが大きいことがデメリットです。また、排気量に見合う給気が必要となるため、狭い部屋での設置や複数台設置によって排気と給気のバランスが崩れ、性能が低下することがあります。室内が陰圧になり、研究室の扉が開きづらくなることもあるので、注意しましょう。

可変風量タイプ(VAV方式)

可変風量タイプは、サッシの開閉状態に合わせて排気風量が自動調整され、開口面の風速が一定になる仕組みです。
一定風量タイプと比べると、必要最低限の給気量で常に開口面の風速を一定に保つため、省エネルギーに作業者の安全を確保できるのがメリットと言えます。また、比較的排気風量が少ないため、複数台を運用する場合にも向いています。
サッシの開閉状態と設定した風速によって、排気風量が制限されるので、安定した換気が必要な場合は注意しましょう。

低風量タイプ

低風量タイプは、省エネルギー対策需要に応えるために、近年普及が進んできているドラフトチャンバーです。
従来型に比べて、排気風量を最大半分以下程度に抑えられるため、今後主流となっていくことが期待されています。
一方で、排気風量が少ないため、安定した換気が必要な大量の熱を使う実験には適しません。
なお、見た目は従来型と変わりませんが、有機則・特化則上の扱いが「局所排気装置」ではなく「プッシュプル型換気装置(※)」という異なる機器となるため、注意が必要です。
※ 有害物資の発散源を挟んで、吹出し用と吸込み用の2つのフードを向き合って設置する方式の換気装置のこと

機器の形状による分類

ドラフトチャンバーには使用目的や設置場所の確保状況に合わせて、さまざまな形状があります。
ここでは「床置きタイプ」「卓上タイプ」「ウォークインタイプ」という3つのタイプに分けて、ご紹介します。

床置きタイプ

中段が作業台になっているいわゆる従来型タイプを指します。装置上部の排気口から排気ダクトを通じて、室外に安定した排気を行うタイプが多いですが、ダクトレスタイプもあります。
広い作業スペースを確保しながらも、作業者の安全を守ることができます。

卓上タイプ

卓上タイプは、配管工事が不要なダクトレスタイプのドラフトチャンバーです。庫内の有害物質は高性能フィルターでろ過され、室内排気されるため、空調ロスしにくいこともメリットです。
また、コンパクトで実験台の上に簡単に設置できるため、設置場所を移動することができます。同様の理由で、設置スペースが広く取れない場所にも向いています。
一方で、床置きタイプと比べると作業スペースは制限されてしまいます。

ウォークインタイプ

ウォークインタイプには床置きタイプのような作業台はありません。床面をそのまま利用し、内部の有効高さを大きく確保することができるので、庫内に大型床置装置を設置することが可能です。

ドラフトチャンバーを選ぶ4つのポイント

ここまで、ドラフトチャンバーの概要、原理や種類についてご紹介してきました。
多様化する需要に合わせ、さまざまな種類があるドラフトチャンバー。ここからは、それらの中から最適なドラフトチャンバーを選ぶためのポイントを4つご紹介します。


1.どんな実験をするか

安全にドラフトチャンバーを使用するためには、実験内容にあった材質や排気風量の制御方式を選ぶことが重要です。

たとえば本体の材質は、有機溶剤を使用するならステンレス製、金属を腐食させる酸塩基系を使用するなら塩化ビニル製、耐薬品・耐火性が必要ならスチール製というように、使用する薬剤によって最適な材質があります。ダクト工事が必要な場合は、ダクトの素材も同様に考えなくてはなりません。さらに、作業台はステンレスや塩化ビニルのほかに、耐薬品・不燃・耐摩耗・非電導性に優れたセラミックなどがあり、用途に合わせて選ぶことができます。

加熱実験のように安定した換気が必要な場合は、「排気風量の制御方式による分類」でご紹介した「一定風量タイプ」を選ぶ必要があります。また、「一定風量モード」と「可変風量モード」を切り替えられる機種もあります。

このように、どのような実験で用いたいのかによって最適な機種は変わります。導入が大変な装置ですので、できる限り長期的に実験内容を洗い出しておきましょう。

2.必要な作業スペースと設置環境の兼ね合い

機器の形状による分類」でお伝えした通り、コンパクトな作業スペースなら卓上タイプ、十分な作業スペースを確保したいなら床置きタイプ、大型機器を収容したいならウォークインタイプというように、必要な作業スペースによって最適な形状があります。

一方で、適切な設置環境が確保できない場合、「性能を損なわないための注意点」でお伝えしたように、外部環境からの気流の影響を受け、十分な性能が発揮できない状況になってしまうこともあります。そのような場合は室内排気の卓上タイプや、「排気風量の制御方式による分類」でご紹介した可変風量タイプや低風量タイプのように、外部環境からの気流の影響を受けにくい装置を選んだ方が良いかもしれません。

また、ダクト工事が可能な設備環境でない場合は、ダクトレスタイプの中から実験内容に最適な機種を選択する必要があります。既存の排気ファンや排気ダクトがある場合、新たに導入する機種と適合するか、風量や風速などの確認が必要です。

このように、設置環境における制約によってさまざまな検討事項があるため、必要な作業スペースのみで一概に形状を決めることはできません。

3.付加機能は必要か

ある程度の機種が定まったら、照明や内部電源、ガス栓や水栓といった付加機能の必要有無についても検討しましょう。メーカーや製品によって、付属品やオプション品は異なるので注意が必要です。
使用装置の電源や必要なケーブル類が配置できるかどうかのチェックも欠かせません。

4.搬入経路を確保できるか

装置のサイズによっては、エレベーターや研究室の扉から運び入れることができず、室内からの搬入経路が確保できないことがあります。
そのような場合は、クレーンのような特殊車両による搬入となるため、費用が高額となります。


ドラフトチャンバーの目的は「作業者の安全を守る」ことです。適切な機種を選ぶことで、研究者の方が安心して実験できる研究環境を構築することができます。しかし、そのためにラインナップが豊富で、1からメーカーや機種を選定していくのがなかなか難しい装置です。
適切な機種がわからずお悩みの際は、お気軽にご相談ください。実験内容や設置環境など細かくお伺いして、最適なドラフトチャンバーをご提案させていただきます。

ドラフトチャンバーの選び方を相談してみる



池田理化のドラフトチャンバー取り扱いメーカー

池田理化の豊富な取り扱い製品から、おすすめのメーカーと機種をご紹介します。
(メーカー名の五十音順で紹介しています)
 

アズワン

おすすめ機種と一押しポイント

ラボドラフト AZ9-FEWシリーズ


酸・アルカリ、有機溶剤等を使用可能な耐薬品性に優れたコンパクトサイズ

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オリエンタル技研工業

おすすめ機種と一押しポイント

ヒュームフード「RACINEシリーズ」


国内の基準のみならずグローバルな規格・基準をクリアした品質
高いユーザビリティと安全性を備えたドラフトチャンバー(ヒュームフード) 

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ダクトレスヒュームフード「Captair Smartシリーズ」


ダクト不要で、コンセント接続だけで暴露対策に貢献
有害ガスを高性能フィルターで吸着し、クリーンエアーを実験室内に循環排気可能

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ダルトン

おすすめ機種と一押しポイント

DFC型ドラフトチャンバー(DFC40 ウォークイン型)


大型床置き機器を使用することが可能なウォークイン型
作業台がなく、床面をそのまま利用して内部有効高さを大きく確保

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池田理化ではご紹介した機種以外にも、幅広い製品を取り扱っております。
ドラフトチャンバーをお探しの方は、オンラインカタログから他の機器もご覧ください。


 

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まとめ

ドラフトチャンバーは研究者の安全を多様な機能でサポートしてくれる重要な設備です。
ドラフトチャンバーの選び方は実験の種類や研究室の広さ、周囲の環境によっても変化します。今回の記事を、適切なドラフトチャンバーの選択にお役立てください。

ドラフトチャンバーの導入について、不明な点や疑問点がある場合、お気軽にご相談くださいませ。